« 皆川亮二『海王ダンテ』第5巻 今明かされる二人のルーツ、そしてこれからの戦い | トップページ | 速水時貞『蝶撫の忍』第2巻 さらなる昆虫忍者登場 頂上決戦勃発寸前!? »

2018.06.28

かたやま和華『笑う猫には、福来る 猫の手屋繁盛記』 宗太郎が得るべき世界、作るべき世界


 ひょんなことから巨大な白猫に姿を変えられてしまった青年・宗太郎が猫の手屋として奮闘する姿を描くシリーズも、順調に巻を重ねてこれで5作目。今回は過去の作品に登場したキャラクターたちが再登場、これまで以上に賑やかな一冊であります。

 酔っぱらって猫又の長老をふんずけたばかりに、巨大な白猫に姿を変えられてしまった遠――いや近山宗太郎。こんな姿では父母に迷惑がかかると家を出た彼は、裏長屋で困った人を助ける猫の手屋を開業し、人間の姿に戻るために百の善行を重ねるために奮闘の毎日であります。
 人間の頃は石部金吉だった宗太郎ですが、裏長屋で様々な人情、いや猫情や妖情と触れあううちにだいぶ丸くなり、成長した様子。それでもまだまだ彼の丸い手には余る事件があって――というわけで第一話「琴の手、貸します」は、宗太郎がお見合い騒動に巻き込まれることになります。

 寒い風が吹き始めた頃、珍しくも風邪を引いてしまった宗太郎。そんな時猫の手屋に、上野でちょっと遅い紅葉狩りにかこつけて行われる、大店同士のお見合いの立ち会いの依頼が入ってしまいます。
 体調不良でも、そして自分には無縁の世界の話でも、仕事はこなすのが猫の手屋――と頑張ろうとする宗太郎ですが、そこに琴姫が居合わせたことから騒動が始まります。

 シリーズ第三弾『大あくびして、猫の恋』の「男坂女坂」に登場した彼女は、大身旗本のお嬢様にして宗太郎の許嫁。姫君らしからぬアクティブな方ですが、何かの修行と称して消息不明(ということになっている)の宗太郎をいつまでも待ち続けるといういじらしい娘さんでもあります。
 それが思わぬ因縁で猫の手屋の宗太郎と知り合い、彼が許婚のなれの果てとも(たぶん)知らずにすっかり気に入ってしまった彼女がたまたま宗太郎の長屋に顔を出していたばかりに、今回の顛末となってしまったという状況であります。

 宗太郎が本調子ではないのを良いことに(?)、彼に成り代わって猫の手を、いや琴の手を貸すと変装して立ち会い役を買って出た彼女は、首尾よく見合いを終わらせたかに見えたのですが、それが騒動の始まりに……


 そんな愉快かつ微笑ましい第一話に続く「田楽の目、貸します」は、今度は宗太郎の「子」として猫の手屋になろうと奮闘する子猫・田楽の姿を描くお話。
 シリーズ第二弾『化け猫、まかり通る』の「晩夏」で、宗太郎に拾われた猫の孤児・田楽。そのエピソードで目の見えない大店の娘・お絹に飼われることになった田楽は、猫の手屋として彼女を扶けるべく、彼女の目の代わりになって、思い出の景色を再現すべく奔走することになります。

 そしてラストの「あすなろ」は、とある長屋の偏屈な観相師・あすなろ先生が次々と彫る木彫りの面――同じ長屋の住民たちに気味悪がられている――を何とか処分するよう依頼された宗太郎が、先生の抱える事情を知ることになるというお話であります。
 かつて愛妻を失い、残った息子を健康に育てようと思うあまり、かえって子供を苦しめ、家出させる過去を持っていた先生。その息子が猫の姿で帰ってきたと思い込んだ彼を、何とかなだめようとする宗太郎ですが、さらに幽霊騒ぎまで持ち上がって……

 と、どのエピソードも、シリーズでは既にお馴染みの鉄板ギャグ、天丼ギャグを交えつつ展開する、微笑ましくもほろ苦く、温かい物語ばかり。正直なところ、ものすごく斬新、という内容ではないのですが、しかし宗太郎という特異過ぎるキャラクターと彼が存在する世界観を交えることで、独特の味わいを生み出しているのは間違いありません。
 特に「あすなろ」の、白黒をきっちりとつけるのではなく、余韻を――余白を残した結末は素晴らしく、ある意味これまでの宗太郎であれば選べなかったであろう結末として、印象に残ります。


 そう、考えてみれば宗太郎が石部金吉であったということは、ある意味、他人と――周囲の世界に対して、頑なに己のやり方で接してきた、と言えるのではないでしょうか。本シリーズは、そんな彼が猫になり、猫の手屋となることによって、周囲の人々と共に生きることを学んでいく物語であると感じられます。

 考えてみれば本作に登場するのは「許嫁(すなわち将来の妻)」「子供」、そして他所様ではありますが「親」――人間にとって最もミニマムな「世界」であります。
 宗太郎が、果たしてこの先人間に戻って、この世界を得ることができるのか。そしてその時どのような世界を作るのか――楽しみにしたいと思います。


『笑う猫には、福来る 猫の手屋繁盛記』(かたやま和華 集英社文庫) Amazon
笑う猫には、福来る 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫)


関連記事
 『猫の手、貸します 猫の手屋繁盛記』 正真正銘、猫侍が行く!?
 かたやま和華『化け猫、まかり通る 猫の手屋繁盛記』 武士と庶民、人と猫の間に生きる
 かたやま和華 『大あくびして、猫の恋 猫の手屋繁盛記』 絶好調、妖怪もの+若様ものの快作
 かたやま和華 『されど、化け猫は踊る 猫の手屋繁盛記』 彼の奮闘の意味と努力の行方と

|

« 皆川亮二『海王ダンテ』第5巻 今明かされる二人のルーツ、そしてこれからの戦い | トップページ | 速水時貞『蝶撫の忍』第2巻 さらなる昆虫忍者登場 頂上決戦勃発寸前!? »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/66870277

この記事へのトラックバック一覧です: かたやま和華『笑う猫には、福来る 猫の手屋繁盛記』 宗太郎が得るべき世界、作るべき世界:

« 皆川亮二『海王ダンテ』第5巻 今明かされる二人のルーツ、そしてこれからの戦い | トップページ | 速水時貞『蝶撫の忍』第2巻 さらなる昆虫忍者登場 頂上決戦勃発寸前!? »