森みつ『カリガネ』 油断の出来ない二人が培った「絆」
東北に覇を唱えた独眼竜こと伊達政宗と、柳生新陰流の礎を築いた柳生宗矩――あまり接点のないように感じられるこの二人は、実は親しく交流する間柄でした。本作はその史実を踏まえて描かれる二人の物語――戦国の終わり、泰平の始まりに生きた二人とその時代を描く、なかなかにユニークな作品です。
秀吉の北条攻めの最中、ひとり陣を抜け出したところを野盗に襲われた伊達政宗。彼を救ったのは、そこに居合わせた凄腕の剣士・柳生又右衛門――後の宗矩でありました。
しかしそこで宗矩が人を斬れないという弱みを見破り、それをネタに、将軍家指南役となった宗矩から情報を得ようと企む政宗。
一方の宗矩も、主であり次の将軍である秀忠を支えるため、北の雄藩である伊達家の力を利用するべく動くのでした。
かくて、徳川幕府が地盤を固めていく中、水面下で丁々発止とやり合う政宗と宗矩。しかし、豊臣家との大戦が迫る中、二人の運命もまた歴史に翻弄されることに……
政宗といえば戦国時代の人、宗矩といえば江戸時代の人――なんとなくそんな印象がありますが、実はこの二人はわずか四歳違い。完全に同時代人であります。
そして片や有力外様大名、片や将軍家指南役/大目付と、ある意味水と油の中の二人ですが、しかし共に秀忠を支え、個人的にも親しく行き来する仲であったというのは、何とも興味深い史実であります。
もっとも、政宗が秀忠を支えたのも、その腹心たる宗矩に接近したのも、伊達家生き残りのため――と容易に想像できるところではあります。そして宗矩の方も、トップクラスの要注意人物として政宗に接していたであろうこともまた。
本作もそのスタンスで描かれてはいるのですが――しかしこの二人のキャラクター、そしてそのやり取りが、なかなか味があるのです。
小田原合戦以来の因縁である二人。お互いがお互いの腹の底を知り、そしてそれを利用しあうという、何ともドライな仲なのですが、しかし見方を変えれば二人は腹蔵なき関係。
そんな二人がやり合う様は、信用できない連中ばかりの中で、唯一お互いを知り尽くした、ライバル同士のぶつかり合いにも似た潔さすら感じられます。
(もちろん、そのお互いが一番信用できない、油断できない相手なのですが……)
本作で描かれる二人の青年期から晩年まで――大きな時代の境目をまたいで、単純な敵とも味方とも言い難い二人の、戦場での命のやり取りとはまた異なるやり取りを経た二人の関係性はなかなか興味深いところであります。
しかしそんな強者二人も、時代の巨大なうねりの前には、大きく翻弄されることになります。
戦国最後の戦い、泰平のための最後の試練とも言うべき大坂の陣――そこで二人は、それぞれの立場から、かつてのような自分ではいられぬほどの、歴史の荒波に晒されることになります。
そしてその荒波は二人だけではなく、彼の周囲の人々――彼らの次の代を担うべき、松平忠輝、五百八姫、そして豊臣秀頼といった若者たちにも等しく、いや、より激しく襲いかかることになります。
それはあるいは、この国を先頭に立って動かしてきた二人にとっては、耐え難い無力感を感じさせるものであったかもしれません。自分たちが苦しむよりも遥かに苦しいものとして感じられたかもしれません。
しかしそれでも時は流れる。その先にも残るものがある。本作の終盤で描かれるものは、そんなことを感じさせます。
本作のタイトルである「カリガネ」は、作品の結末に描かれる、最晩年の政宗が宗矩に送った和歌の一節。そこにあるのは、そんな残ったものの一つ――長く激しい時の中で培われた「絆」に他ならないのですから。
単行本2巻とそれほど長くないこともあり、第1巻の宣伝で言われる「戦国ロビイスト漫画」という印象はそこまで強くないのですが――しかし他では得難いものを感じさせる作品ではあることは間違いないでしょう。
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