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2018.06.01

横田順彌『星影の伝説』 ハレー彗星輝く夜の怪事と愛


 横田順彌の明治SFの中でも中核を成す鵜沢龍岳ものの最初の長編――明治末期に世を騒がしたハレー彗星接近を背景に、頻発する少女誘拐事件と、遙か過去に滅んだ古代王朝の謎に、龍岳と押川春浪、黒岩四郎と時子といったお馴染みの面々が挑むSFミステリであります。

 夜空にくっきりとその姿を現したハレー彗星が日本中を、いや世界中を騒がした明治43年。その騒動の陰では、東京では若い娘が次々と失踪し、数日後に腑抜けのようになって帰ってくるという、奇怪な神隠し事件が頻発していたのであります。

 ついには龍岳が想いを寄せる黒岩時子の友人も被害にあったことから、彼は事件の調査に協力することになります。
 その矢先、下宿のおかみから、以前のハレー彗星接近の際にも同様の神隠しがあったと聞かされた龍岳は、当時を知る老人から、過去の出来事を聞かされることになります。

 一方、大谷探検隊が持ち帰った資料を元に、遙か昔に砂漠に消えた幻の王朝を研究しているという吉川老人に「冒険世界」の原稿を依頼していた春浪は、老人が突然呆け、さらに資料が行方不明になったと知らされます。
 その埋め草にと神隠しに関する原稿を依頼されたのが、科学小説家志望の美女・榊原静乃。それに協力することとなった春浪の友人・河岡潮風は、彼女に強く惹かれるようになります。

 その後も神隠しの調査と、失われた吉川老人の資料探しを続ける龍岳たちですが――何故か彼らが取材に向かった証人たちは、ある者は人事不省となり、ある者は不可解な死を遂げ、次々と姿を消していくことになります。
 しかしそれでも過去から現在まで続く神隠し事件の背後に、同じ顔をした一人の女性の存在があることを知った龍岳たち。そしてかつて同様の神隠しが起きたという信州に向かった潮風が手に入れた秘仏の顔は、ある人物と瓜二つで……

 冒頭に述べたとおり、鵜沢龍岳シリーズ初の長編である本作。
 短編集であった『時の幻影館』とは異なり、長編の特性を活かしてじっくりと状況と人物の描写を積み上げ、展開していく物語は、シリーズのカラーとも言える、どこか物哀しい静謐さというものを色濃く感じさせます。

 個人的な思い出で恐縮ですが、そこで思い出すのは、30年近く前に本作を初めて読んだ際に、その味わいがどうにも地味すぎると感じてしまったことです。
 これはもちろん私が悪く、本作の前年に発表された明治SFの第1作『火星人類の逆襲』が、あまりに痛快なSF冒険大活劇であっただけに、こちらにもそのノリを期待してしまったのですが――その時は、ほぼ正反対の作風で面食らったのであります。

 しかし今、冷静な目で読み返してみれば、もちろん本作には本作の魅力があることに気付きます。
 他の作品同様、本作もSF的なアイディアとしてはプリミティブなものがあるのですが――しかしクライマックスに向けて様々な要素を絡み合わせ、じわりじわりと物語を盛り上げていく様が実にいい。

 特に中盤、龍岳たちが事件の謎を探る中で、手掛かりを握る人々が次々と不可解な形で証言不能となり、あるいは手掛かりが消失していくくだりは、一種ホラーめいた味わいにゾクゾクさせられます。
 物語自体が静かに、(当時の)日常的空気の中で展開していく中で、唐突に挿入される理不尽な出来事の数々。その両者のギャップが大きいだけに、それが強烈に印象に残るのであります。

 そしてもちろん、本作の魅力はそれだけでなく、結末に待ち受ける、美しくも何ともほろ苦い、「人間」の情の姿がその最たるものであることは言うまでもないのですが……

 初版から約30年ぶりに復活した明治SFの佳品である本作。作者の明治ものの持つ良き部分が凝縮されたような作品であったと、今更ながらに感じます。
 そしてこの鵜沢龍岳ものの長編は三部作――本作に続く『水晶の涙』『惜別の宴』も、残る短編集二作と合わせていずれご紹介いたします。

『星影の伝説』(横田順彌 柏書房『時の幻影館・星影の伝説』所収) Amazon
時の幻影館・星影の伝説 (横田順彌明治小説コレクション)

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