中原裕『江戸っ子エド公』 金髪忍者は有名人の子孫!?
徳川家康に仕え、外交顧問として活躍した三浦按針ことウィリアム・アダムズ。その子孫が八代将軍吉宗が治める日本に来日し、忍術修行に勤しむという、極めてユニークな連作時代漫画であります。
漂流の末、戦国時代末期の日本にたどり着き、徳川家康と出会ってその外交顧問として三浦按針の名を与えられたウィリアム・アダムズ。
本作の主人公は、その子孫であるエドワード・アダムズ――通称エド。日本の忍者に憧れて来日し、忍術修行のために江戸に暮らすこととなった彼は、その人目につく金髪の姿も意に介することなく、今日も忍術修行と称して騒ぎを起こす毎日であります。
そんな中、番町皿屋敷の伝説のある旗本邸で、主が腰元・お涼を手篭めにしようとして返り討ちにされるという事件が発生。しかし井戸に身を投げたお涼は忽然と姿を消し、数日後に幽霊となって井戸から現れたというのであります。
事件に興味を抱き、調査に向かったエドは、そこで出会った屋敷の井戸番の老人・伊助の秘密を見抜き、彼とともに、お涼を救うために活躍を繰り広げることに……
この第1話に続き、エドと伊助、お涼、そして大岡忠相らが、江戸を騒がす奇怪な事件に遭遇する姿を描く本作。
全8話で構成される物語の中で、この後もエドは次々と事件と謎に挑み、さらに終盤では、お涼のあまりにも意外な出生の秘密、さらには三浦按針が残した秘宝などが描かれるなど、バラエティ豊かな物語が展開されることになります。
特に個人的に面白かったのは、自らを「月光西照権現」と名乗り、徳川家への恨みを語る家康の亡霊を描く第2話や、見たものはたちどころに命を奪われるという奇怪な石神の探索に向かったエドと伊助が、自分たちの分身と出会う第6話であります。
どちらもトリック自体はさほど入り組んだものではないのですが、第2話は背後にあの有名な巷説を絡めて一気に伝奇度が上がったり(そしてそれを思わぬ形で裏書きしてしまうオチが楽しい)、第6話はちょっと唐突な展開に見えたものに「ドッペルゲンガー」が絡んで一気に時代ものとして重くなるのが、実にいいのであります。
それにしても、江戸時代もど真ん中の将軍吉宗の時代に、金髪のイギリス人が江戸で忍術修行、という本作の基本設定は、それこそが肝ではあるものの、ずいぶん豪快なアイディアだと驚かされたのですが……
しかしそこに、「三浦按針の一族は、子々孫々まで厚遇せよ」という家康の遺訓があったという設定を用意して、風穴を開けてしまうのが何とも痛快でいい。そして吉宗自身もそういう話を大いに面白がりそう、というイメージをうまく使っているのも面白いところです。
そしてそのエド(ちなみに母国での彼の学問の師はアイザック・ニュートン!)自身も、いわゆる日本かぶれの面白外国人的な造形ではあるものの、しかし極めて陽性かつ素直で正義感の強い人物として描かれており、好感の持てるキャラクター像であります。
とはいえ、作中で描かれる事件はかなりシビアなものばかり。身分の差や社会制度による理不尽、権力の裏側に関わるため塗りつぶされた秘密など――この時代ならではのものが、本作では次々と描かれることになります。
そしてそんな理不尽に対して、様々な意味で外側の人間としてエドが見せる想いの発露――そしてそれは多くの場合、現代の我々の視点とも重なるわけですが――が、実は本作の最大の魅力、見どころであると言っても過言ではないと感じるのであります。
(そしてそれは必ずしも「正しい」ものとは言えず、現実を知らぬ理想的なものに過ぎないこともあるのですが、そこにきちんと別の視点がぶつけられるのもいいのです)
実のところ、エドは思ったほど活躍せず、むしろ師匠に当たる伊助の方が活躍している印象もあるのですが、そこはまあ、修行中の身ということで……
単行本全1巻と、分量自体は多くないのですが、なかなかに面白い物語であることは間違いない作品であります。
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