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2018.07.15

TAGRO『別式』第3巻 強く正しく美しい彼女の残酷さ、無神経さ


 江戸時代初期を舞台に、剣術自慢の娘――別式たちの姿を描く本作もいよいよ佳境。無類の強さを誇る剣士にして面食いの主人公・類の存在を、一人の男と一人の女が問い直すことになります。そしてその先に描かれるものは……

 自分より強いイケメンを求めて次々と男たちと立ち会う類、そんな彼女にコンプレックスを抱きつつ秘めた恋に悩む魁、表では伝法に振る舞いつつも仇である狐目の男を密かに追う切鵺、日本橋の母と異名を持つ占い師にして二刀流の達人の刀萌――今日も江戸でそれぞれに暮らす別式たち。
 そんな中でも今日も類は絶好調、亡父の主である土井大炊守が差し向ける婿候補(その他街角でエンカウントするモブ侍)をバッタバッタと薙ぎ倒す毎日であります。

 ということはすなわち、相変わらず類は男に縁なしということですが――そこに新たな挑戦者が現れます。その名は菘十郎――かつての類の父の門下生であり、そして類の視界から自動的に抹消されるほどの微妙なルックスの持ち主であります。
 その風貌により、幼い頃から周囲にいじめ抜かれ、理不尽な嘲りを受けてきた十郎ですが、しかしその実、彼は類の父直伝の剣の達人。試合の場で類の父と瓜二つの剣技を見せる十郎は、ついに類を圧倒するのですが……

 そしてそのエピソードに次いで描かれるのは、刀萌の過去編であります。占い師と二刀流の剣士――いや、金で人を死末する凄腕の殺し屋という二つの顔を持つ刀萌。その優しげな姿には似合わぬ裏の顔を彼女が持つに至ったのは何故か、その二刀流はどこで身につけたものか、そして彼女は何のために人を斬るのか――すなわち、金を稼ぐのか。
 それはあまりにも重く無惨な物語。青春残酷物語どころではない、純粋に残酷時代劇であります。

 そして次の死末のターゲットとして彼女が挑むことになったのは、狐目の男・岩渕源内……


 これまで物語の中では圧倒的に「強く」「正しく」「美しい」存在として描かれてきた類。イケメン以外や自分より弱い者に徹底的に冷たいという欠点などはあるものの、それは主人公としての一種の特権の前には塗りつぶされるものであります。

 そんな類に対して、この巻で描かれる十郎と刀萌の姿は、正反対とすら感じられます。
 (かつては)理不尽な暴力の前に萎縮するしかないほど「弱く」、人として正道ではない道を歩むという「誤り」を犯し、そしてその姿あるいは生き様はあまりにも「醜い」――容赦のない言い方をしてしまえば、それが二人の在り方なのです。
(そしてそのあまりの無残さを、本作ならではの可愛らしい絵柄が巧みに中和し、そして同時に増幅しているのには唸るほかありません)

 しかしそんな二人は、類というキャラクターの根本的にある、どうしようもないほどの残酷さ、無神経さを容赦なく剔抉する存在として機能します。
 他のキャラクターが大なり小なりの悩みを、陰を抱える中で、彼女のみは――もちろん皆無ではないものの――あまりにも軽い。いやむしろ、その悩みを無神経に周囲にぶつけ、あまりにも自分本位に生きていると言うほかありません。

 そしてその根底にあるもの、それを許しているものが彼女自身の「強さ」「正しさ」「美しさ」にあるとすれば――それはなんと残酷なことでしょうか。彼女が彼女である限り、彼女はそれに気付くことはないのですから。
 源内との決闘に向かう直前、刀萌が彼女に対して予言したように……


 もちろんそれは、彼女に「情」がないということではありません。いやむしろ、彼女は様々な形で「情」が濃すぎると言うべきかもしれませんが――だとすれば、その彼女を変えることがあるとすれば、それは彼女の「情」を揺るがせるほど、周囲から失われるものがあった時かもしれません。
 かつて早和が去った時のように。そしてこの巻のラストのように。

 果たしてその先に彼女を待つものが何なのか。それを経験してなお、彼女は「強く」「正しく」「美しく」存ることができるのか。
 そしてそれは本作の第1巻の冒頭で描かれたあの昏い未来図に繋がっていくのかもしれませんが――そこに至るまでの道の辛さから目を背けたいのにもう目が逸らせない、そんな強烈な力を持つ作品であります。


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