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2018.08.08

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第12巻 新章突入、刀鍛冶の里での出会い


 連載本誌の方でも快調に飛ばす『鬼滅の刃』ですが、単行本の方では、長い長い死闘を繰り広げた遊郭編も前巻で大団円を迎え、この第12巻からは新展開に突入。ついに全ての上弦の鬼が集結し、一方で炭治郎が向かった刀鍛冶の里では、次々と新たな出会いが描かれ――と見所だらけの一冊であります。

 遊郭に潜む二身一体の強敵、上弦の陸こと妓夫太郎と堕姫を、ギリギリの死闘の末に倒して全員生還した炭治郎たち。百年ぶりの敗北に対し、鬼の首魁・鬼舞辻無惨は、怒りに燃えて残る上弦全員を召集することになります。
 そして登場するのは玉壺・半天狗・猗窩座・童磨・黒死牟――いずれも上弦に相応しい異形の姿を持ち、狂気を漂わせる五人であります。強敵たちの勢揃いはそれだけで大いに盛り上がるものですが、しかしそこで一切の反論を許さぬブラック企業さながらの追い込みをかける無惨様と、チームワーク皆無のギスギスさを見せる上弦たち(というか猗窩座)。本当に恐ろしい連中であります。

 その一方で、ようやく復活した炭治郎が向かうことになったのは、鬼殺隊の隊士たちの用いる日輪刀を打つ刀鍛冶の里。
 隊士たちの刀、すなわち鬼にとっては何よりも恐ろしい武器を作り、直すだけにその存在はトップシークレットのこの里に、一人炭治郎が向かうそのわけは――毎回戦いで刀にダメージを与える炭治郎に激烈な怒りを燃やす刀鍛冶・鋼鐵塚(今回、非常に可愛らしい本名が判明)が、刀を打つことを放棄したため、というのが、またらしいというか何というか……

 何はともあれ、直談判のために里を訪れた炭治郎の前には、新登場――ではないものの、これまでほとんど顔見せのみだったキャラたちが、次々と登場することになります。
 そのビジュアルと言動、何よりも流派名が衝撃的な恋柱・甘露寺蜜璃、あの宇随天元をして化物と言わしめた霞柱・時透無一郎、そして炭治郎の同期最後の一人でありながらこれまでほとんど出番がなかった謎の男・不死川玄弥。

 これがまた、どいつもこいつも期待以上のキャラの濃さで、そこに新キャラクターの純粋毒舌少年・小鉄、おなじみの三十七歳児・鋼鐵塚と絡んでくるのですからたまりません。バトルシーンはかなり少ないものの、次々と登場する(ほとんど)新キャラクターたちのやりとりだけでも本当に楽しいのであります。
 これまで毎回書いてきたように、物語の緩急の付け具合が絶妙な本作ですが、この巻は言ってみれば「緩」。どこかズレたキャラクターたちのやりとりは、ギャグ漫画としても成り立つ――というよりほとんどそのもので、特に満を持して(?)の鋼鐵塚登場シーンはもはや衝撃映像クラスと言うほかありません。


 そんな中、一人でシリアス――というか異質な空気を漂わせているのが時透無一郎であります。
 炭治郎よりも小柄で年下ながら、日輪刀を手にしてわずか数ヶ月で柱になったという怪物――には似合わぬ儚げな美少年の時透ですが、その言動は冷徹とも無神経とも高飛車とも言うべきもの。悪意はないものの、柱としての立場からの強烈な合理性で周囲を圧し、子供に暴力を振るうことも躊躇わない姿は、悪い意味で意外性満点であります。

 あの温厚な炭治郎が、「こう…何かこう…すごく嫌!! 何だろう配慮かなぁ!? 配慮が欠けていて残酷です!!」と困惑混じりに激昂するのもむべなるかな、と言うほかない造形で、時折記憶が曖昧になることも含め、まだまだ得体の知れないキャラクターなのです。(その印象が後にガラリとひっくり返されるのが本作なのですが――それはまたのお楽しみ)

 しかしそれでも鬼殺隊としては頼もしい戦力であることは間違いのないお話。この巻の終盤では刀鍛冶の里に上弦の伍・玉壺と上弦の肆・半天狗が襲来、一人でも(分裂しましたが)あれだけ苦戦した上弦が二人、それも完全な奇襲という絶望的な状況で、彼の本領が発揮されるか!? と思ったら――と相変わらず油断できない展開ですが、ダークホースとも言うべき玄弥が登場し、なかなかに気になるヒキで次巻に続くことになります。


 ……しかしこの玄弥、相変わらず感じのいい炭治郎の挨拶に対して、いきなり「死ね!」と返す意味不明の荒くれぶりを発揮するものの、おまけページで純情過ぎる姿をバラされるには思わず爆笑。
 本当にどこまでも油断できない作品であります。


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