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2018.08.14

せがわまさき『十 忍法魔界転生』第13巻 決戦、十兵衛vs武蔵 そして十兵衛は何処へ


 長きに渡り繰り広げられてきた柳生十兵衛と魔界転生衆の戦いもこれにてついに完結であります。魔界転生衆で最後に残ったのは、名実ともに最強の剣豪・宮本武蔵――果たしてこの強敵に十兵衛は如何に挑むのか? そして決戦の果てに待つものは……

 十兵衛に魔界転生衆を六人まで倒され、さらに乗り込んできた松平伊豆守に圧倒された徳川頼宣。追い詰められた末に宗意軒の甘言に乗せられた頼宣は、お雛とお縫を使って魔界転生を行うことを決意するのですが――ーしかしそんな中、一人不穏な動きを見せるのは宮本武蔵であります。
 あろうことか自らの主である頼宣を見限り、頼宣らの企てを手土産に松平伊豆守に接近して徳川本家への仕官を狙う武蔵。その意図を知った宗意軒を一撃で叩き潰した武蔵は、様子を窺っていた柳生十人衆最後の二人をも叩き斬ると姿を消すのでした。

 そんな非常事態とはつゆ知らず、自らの手でもってお雛とお縫を忍体と化し、頼宣を転生させようとしていたお銭。しかしその場に現れた荒木又右衛門――いやその扮装をした十兵衛の妨害に遭い、その簪を手裏剣としてのダイナミックなアクション(これが実にインパクトのある構図で良いのです)で十兵衛に挑むも、もちろん叶うべくもありません。
 そして二人娘は無事に救い出した(けれどもはだかんぼうで放っておく)十兵衛の叱咤に、そしてかつて魔界転生衆に討たれた三達人の願いに打たれて頼宣も観念し、ここに紀州を舞台とした奇怪な陰謀も終結したのであります。

 が、そこに現れたのは武蔵に斬られたはずの二人衆。文字通り死力を振り絞った二人が十兵衛に伝えた武蔵の行動は、彼に大きな衝撃を与えます。この武蔵の暴走こそは、十兵衛のこれまでの苦労を、三達人の願いに応えて紀州徳川家を守ろうとした苦心惨憺の日々を無にするものなのですから。
 かくて最大の敵を止めるため、最後の戦いに挑む十兵衛。場所こそ違え、名前は同じ舟島――すなわち武蔵が佐々木小次郎を斃した島――に武蔵をおびき寄せた彼は、かつての決闘の如く十兵衛を粉砕せんとする武蔵の前に立つのですが……


 七人の魔界転生衆を討つべく柳生を旅立った時には、十兵衛と三人娘に弥太郎、そして柳生十人衆と賑やかだった一行。しかし十人衆は全て斃れ、今では三分の一の人数となったあまりにも寂しい姿が印象に残ります。

 十兵衛は久々の「んふっ」笑いからの獰猛な表情で「おれはおれ 柳生十兵衛だ」と実に格好良い見得を切ったものの、しかし相手は宮本武蔵。決闘の地が舟島と知り、かつての小次郎との決闘を反芻してもはや勝った気になっている状況です。
 もっともこれこそが十兵衛の策――これまでの戦いがそうであったように、絶対的に有利な状況にある相手を戦いの場に引っ張り出し、逆転の布石を打つのが本作の十兵衛の先方ではありますが、しかし今回はあまりに相手が悪いとしか言いようがありません。

 十兵衛勝つか、武蔵が勝つか――その死闘がいかなる決着を見せるのか、その詳細は伏せますが、その果てに描かれる結末は、二つの点で、いささか意外に思われる方も多かったのではないでしょうか。
 一つは、この大作のフィナーレとは思えぬ寂寥感溢れるものであったこと。そしてもう一つは、原作とはいささか異なる描写であったこと――この二つの点において。

 前者は原作由来(というよりこのラストバトルの元ネタである吉川英治の『宮本武蔵』由来と言うべきでしょうか)であるから仕方ないとして、後者は何故か……?
 これはもちろん想像するしかないのですが、この『魔界転生』という物語が、血湧き肉躍る剣豪オールスター戦であり、そしてこれまでに小説や講談等で描かれてきた剣豪もののパロディであったのと同時に、彼ら剣豪の、そして剣豪たちの時代への鎮魂歌であると考えれば、この結末も大いに頷けるものではないでしょうか。

 さらに言えば、これまで十兵衛が戦ってきたのは、既に時代の遺物となりかけていた――そして魔性の者となってもその運命に逆らおうとした――剣豪たちでした。
 そして作中でその剣豪たちによって、同志として魔界転生衆に誘われたように、十兵衛もまたその剣豪であるとすれば――彼は自分で自分の仲間たちを斬り、その果てに最後の一人となってしまったとも言えるかもしれません。

 だとすれば、ラストシーンの十兵衛の表情の意味は、そしてこの先十兵衛は何処に向かうのか……


 『十 忍法魔界転生』――原作そのものの内容だけでなく、その先にあるものまでも描き出してみせた、見事な漫画版でした。


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