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2018.08.24

篠原烏童『明日は死ぬのにいい日だ』 天狗と山賊と――風変わりな二人が結んだ友情

 嵐の後、とある宿場町の浜に流れ着いたネイティブ・アメリカンの青年。地元の山賊の頭領・力王丸と宿の名主の娘・おいとに助けられた青年は「天狗」と呼ばれ、力王丸と行動を共にする。しかし謎の「白い幽霊」と彼を追う八州廻りの出現により、力王丸たちの周囲はにわかに騒がしくなって……

 作者の作品には時代ものも幾つか含まれますが、本作はその一つ。時代劇にネイティブ・アメリカンを持ち込むというユニークなアイディアと、彼を取り巻く人間群像が魅力の作品であります。

 物語の舞台は19世紀初頭の、江戸から遠くない宿場町。そして物語の中心となるのは、近くの山を根城とする山賊(といっても不良少年グループに毛が生えたような印象)を率いる青年・力王丸と、背が高いのがコンプレックスの娘・おいと、そして彼らに「天狗」と呼ばれるネイティブ・アメリカンの青年の三人であります。

 白人の友に裏切られて故郷を奪われ、自らは売り飛ばされて船に乗せられた天狗。嵐の晩に日本近海にやってきた彼は、守護鳥の導きで難破寸前に海に身を投じ、一人生き残ることになります。
 言葉が通じぬためそんな事情は知らないながらも、天狗の実直さを信じた力王丸は、持ち前の気っぷの良さもあって彼を自分たちの仲間に入れ、成り行きから半ば仲間のようになったおいとも、二人に惹かれていくようになるのでした。

 が、それとほぼ時を同じくして、町の周囲で目撃されるようになった「白い幽霊」。その正体は、ある目的を持ってこの浜にやって来た白人と見紛う姿の青年・雅丸だったのですが――彼は力王丸と意外な関係を持つことが明らかになります。
 しかし雅丸を切支丹と睨んで執拗に追う八州廻りが現れ、狩り立てられる力王丸の一党。さらにおいとの両親も思わぬ形でこの一件に関わっていたことから、彼女も力王丸と行動を共にすることになります。

 そんな中、天狗は雅丸の姿にかつての忌まわしい記憶を蘇らせるのですが……


 ネイティブ・アメリカンと行動を共にした作家、ナンシー・ウッドの著作のタイトルで知られるようになった「今日は死ぬのにいい日だ」という言葉。ネイティブ・アメリカンの死生観を表す言葉として印象的なこの言葉が、本作のタイトルのモチーフであることは言うまでもありません。
 しかし何故「今日」ではなく「明日」なのか――それは作中で明確に描かれるためにここでは伏せますが、そこにあるのは、友を信じる若者たちの清々しい心意気であり――その姿を描くことこそが、本作の主題であると言っても良いでしょう。

 本作の登場人物たちは、ほとんど皆(自覚があるかないかを問わず)何らかの秘密や過去を背負った者たち。力王丸や天狗だけでなく、雅丸やおいとたちも――皆それぞれに、重いものを背負って生きているのであります。
 自分自身ではどうしようもないような巡り合わせや運命の悪戯で、そんな重荷を背負わされた人々は、苦しみながら生きるしかないのでしょうか? 本作はそれが否であることを、力王丸と天狗、人種や国籍や言葉の壁も関係ない二人の姿を中心に、高らかに謳い上げるのであります。


 単行本全3巻と分量的にはさほど多くないこと、そして――これはこれで大いに感心させられるところではあるのですが――一見無関係に見えた登場人物のほとんど全員(天狗も含めて!)が、実は一つの因縁で繋がっていた、という展開など、どうかなあと思うところはあります。
 しかし重い物語にも負けない登場人物たちの明るさとバイタリティ(これを体現する作者の絵柄も実にいい)には得難い魅力があります。

 何かと不自由な時代を舞台にするからこそ描ける、自由の物語――爽快な後味の、愛すべき作品であります。


『明日は死ぬのにいい日だ』(篠原烏童 秋田書店プリンセスコミックスデラックス全3巻) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon/ 第3巻 Amazon
明日は死ぬのにいい日だ 1 (PRINCESS COMICS DX)明日は死ぬのにいい日だ 2 (プリンセスコミックスデラックス)明日は死ぬのにいい日だ 3 (PRINCESS COMICS DX)

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