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2018.08.03

霜島けい『あやかし行灯 九十九字ふしぎ屋商い中』 一級の怪異と人情と、思わぬ過去の秘密と


 絶好調の妖怪時代小説の最新作――いわくつきの品物を扱う九十九字屋で働くヒロイン・るいと店主の冬吾、そしてるいの父親でぬりかべの作蔵が奇妙な事件に挑むシリーズ第四弾であります。本作ではついにあの人物の過去が判明、何やら嵐の予感が……

 酔っぱらって土壁に頭を打って死んだ拍子にぬりかべになってしまった作蔵とともに、九十九字屋で暮らすこととなった霊感少女・るい。無愛想な主の冬吾や騒々しい作蔵とともに、いわくつきの品に込められた人の想いに触れて成長していく彼女の姿を、本シリーズは描いてきました。

 本作もこれまでのフォーマットを踏まえた内容ですが、第一話の「迷い子の守」では、迷子を預かることとなったるいの奮闘が描かれます。るいと大喧嘩して家出した作蔵が拾ってきた幼児。おちせという自分の名前以外は何もわからない状態の子供を家に返そうと奔走するるいですが、しかし一向に手がかりは掴めません。

 そんな彼女に、不承不承といった調子で、辰巳神社に行ってみろと言う冬吾。その言葉に従って神社に向かったるいは、迷子捜しに霊験のあるという境内の母子石の前で、お壱と名乗る老婆と出会います。手を繋いだ相手が見ていたものを見る力があという彼女に、おちせの心を覗いてもらうことにしたるい。しかしお壱とは一体何者なのか、そして冬吾との関係は……

 という人情話の第一話に続き、第二話「不思議語り」は、好事家の旦那衆が開催する怪談会に冬吾とともに招かれたるいが、同じく招かれていた辰巳神社の神主・周音から、とある商人とその別宅にまつわる悍ましい物語を聞かされるひたすら恐ろしいエピソード。

 そしてラストの表題作『あやかし行灯』は、再びグッとくる人情話であります。夫が亡くなって以来、夜毎独りでに灯るようになったという行灯を持ち込んできた吝嗇な女・お七とその娘・お仙。行灯に夫の亡霊が取り憑いたと語るお七ですが、それだけでなく、お仙に縁談が来るたびにその亡霊が現れ、ぶち壊しにするというのですが……


 霊感少女といわくつきの品物専門の道具屋――だけでなく、そこにぬりかべ親父が加わって他では類を見ないユニークな設定の本作。しかしその設定の面白さだけに頼ることなく、人情ものとしても怪異譚としても一級なのは、これまで通りであります。

 とにかく、描かれる怪異そのものの面白さ、恐ろしさはもちろんのこと、ちょっとした怪異描写が実にうまい。たとえば第一話でお壱が子供の心を覗く場面で、彼女がさらりと発する言葉一つで、心を覗くという不思議な行為が一気に具体性と現実性を帯びる辺りなどはベテランの技というほかありません。
 また、表題作の『あやかし行灯』の怪異は、行灯に亡夫の霊が憑くという、冷静に考えればかなり奇妙な内容ながら、作蔵の存在を考えればこれもアリか、と感じさせられるのがうまい。そしてその怪異が灯す明かりが、物理的なものに限らない――というのが、実に泣かせるのであります。


 しかし本作の見どころはそれだけではありません。本作ではついに、九十九字屋の由来、そして九十九字屋主人の冬吾の過去が明かされるのです。
 なるほど、あやかしに縁を持った人間でなければ入ることができない九十九字屋も、主としてその店を取り仕切る力を持つ冬吾も、明らかに普通ではない存在。果たしてこの店はいつ誰が作ったのか、そして冬吾は何故そのような力を持ち、そして主となったのか――冷静に考えればわからないことだらけであります。

 その一端が本作で明かされることになるのですが――といってもその詳細は読んでのお楽しみ。ここでは伏せることとしましょう。
 しかし一つだけ言えるのは、この巻の新キャラクター・周音が冬吾と大きく関わるということ。お互い顔見知りでありながら、犬猿の中の二人の過去に何があったのか?

 この巻では全てが語られるわけではありませんが、どうやらこの先、この二人の関係性が物語をグイグイ引っ張っていくことになるのではないか――そんな予感がいたします。そしてそこでるいがどのような役割を果たすのか、大いに気になるではありませんか。
(しかしこの周音、かなりシリアスなキャラのようでいて、よく見ると結構面白キャラなのがまた楽しい)


 『のっぺら あやかし同心捕物控』の復刊も決まり、絶好調の作者。この先も本シリーズでどのような怪異と人情が描かれるのか、そしてるいと冬吾、作蔵の物語はどのような先行きを迎えるのか――大いに期待しているところであります。


『あやかし行灯 九十九字ふしぎ屋商い中』(霜島けい 光文社文庫) Amazon
あやかし行灯: 九十九字ふしぎ屋商い中 (光文社時代小説文庫)


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