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2018.08.10

滝口琳々『明朝幻想夜話 『聊斎志異』選集』 美女と怪異と道士と 甦る中国怪談集


 『北宋風雲伝』や『新再生縁』など、かなりマニアックな原典を巧みに少女漫画として再生させてきた作者による、中国怪談集『聊斎志異』のコミカライズ――ユニークなアレンジにより、一種の連作としての味わいも感じられる全5編の短編集であります。

 『聊斎志異』は清代の文人・蒲松齢による全491編の志怪小説(怪奇小説)集。「聊斎(作者の号)が異を志す」という題を冠する本書は、現代に至るまで親しまれ、『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』など、映像化作品も少なくありません。
 日本でも特に明治時代以降様々な作家によって翻訳・翻案されている、おそらくは日本で最も有名な中国怪談集でしょう。

 本作はこの『聊斎志異』のうちから以下の5話をピックアップ。物語の舞台を明代に設定し、原典ではそれぞれ全く別個の物語であったものに、共通の主人公(狂言回し)としてオリジナルキャラクターの侠客道士・郭玄礼を設定しているのがユニークなところであります。

『連瑣』 20年前に亡くなった美女・連瑣と相思相愛となった書生・楊于畏。しかし二人は生と死の壁に隔てられ、さらに連瑣を我がものにしようとする者が……

『瑞雲』 強く惹かれあう杭州一の名妓・瑞雲と貧乏書生の賀。しかし賀に身請けの金はなく、悲しみに暮れる瑞雲の前に現れた郭玄礼の術が思わぬ運命の変転をもたらす。

『画壁』 荒れ寺で一夜を過ごすことになった郭玄礼と朱沖。寺の壁画に描かれた仙女に恋をした朱沖は、絵の仲に引き込まれ、彼女と情を交わすものの……

『画皮』 夜道で出会った美女・周玉卿を妾にしようと連れ帰った王準。しかし彼女の正体は美女の皮を被った魔物だった。魔物は退治されたものの、命を奪われた王準は……

『五通』 蘇州で次々と美女を辱める妖魔・五通神。街で出会った男装の美少女が五通神と婚礼を挙げるよう強いられていると知った郭玄礼は、魔物退治に乗り出す。


 いずれも翻訳されたり映像化されたり(『画壁』は『チャイニーズ・フェアリー・ストーリー』、『画皮』は『画皮 あやかしの恋』の邦題でそれぞれ映画化)と、比較的有名な作品が題材となっている本作。
 私もほとんどの作品の内容を知っていましたが、しかし本書はまたそれらとは一風異なる味付けで楽しませてくれます。

 本書に収録された5編の共通点の一つは、いずれも美女が登場し、登場人物と恋に落ちる点。もっともその美女は普通の人間ではなく、彼女と愛し合ったために大変なことになって――という『聊斎志異』の定番パターンも少なくないのですが、それでも彼女たちが実に美しく、存在感があるのは、この漫画ならではの魅力でしょう。

 エピソードによってはかなり甘々な展開となるのですが、それもまた原典どおり。ここは素直に美男美女の微笑ましくも温かい恋愛の行方に胸を熱くするべきなのでしょう。エピソードによってはかなり露骨な内容も含まれているのですが、その辺りを生々しくなく、サラリと描いているのもまた魅力であります。

 そしてもう一つの共通点は、そんな男女を見つめ、助ける郭玄礼の存在です。
 恋愛には障害がつきもの、ましてやそこにこの世ならぬものが絡むとすれば――と、二人の恋路を邪魔する魔物、美女を苦しめる魔物を颯爽と退治するのが、本書における彼の役回りであります(もっとも、『瑞雲』のみはちょっと役回りが異なりますが、二人を助ける役回りであることには変わりはありません)

 もちろん先に述べたように郭玄礼はオリジナルキャラクターではあります。しかし、彼の役割を果たす豪傑や道士は原典にも登場しており(『画壁』は結構アレンジが入っていますが)、作品のチョイス的にこうした点が影響しているのかな――という印象もありますが、何はともあれ、本書を一つの世界としてまとめるに彼の存在が意味を持っていることは間違いありません。


 何はともあれ、長きにわたり語り継がれた魅力的な怪異譚を、これまた魅力的にリライトしてくれた本作。原典は491話もあるだけに、まだまだ漫画化して欲しい――と今でも思ってしまう一冊であります。


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明朝幻想夜話~『聊斎志異』選集~ (少女宣言)

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