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2018.08.07

田中芳樹『新・水滸後伝』上巻 帰ってきた豪傑たち 新生の水滸伝続編


 スペースオペラ、ファンタジー等、様々なジャンルで活躍してきた作者のもう一つの得意分野は中国の古典。これまで様々な作品をリライトしてきた作者ですが、その最新作は――『水滸後伝』! あの水滸伝の続編小説をリライトするとあれば、マニアとしてはもちろん黙っていられないのであります。

 朝廷に帰順し、四方の賊を平らげたものの、その数を三十数名にまで減じることとなった梁山泊の豪傑たち。今はそれぞれ各地で平和に暮らす豪傑たちですが――しかし運命は彼らを決して放ってはおかないのであります。
 時あたかも北方で金が遼を滅ぼし、南下を狙っている頃。しかし北宋では相変わらず奸臣や小人たちが幅を利かせてやりたい放題、まさに国の滅びは目前に迫っている状況です。

 そんな中、阮小七が悪徳役人に難癖をつけられたことをきっかけに、各地で梁山泊の豪傑たちが動き始めることになります。貪官汚吏に陥れられ逆襲に転じる者、新天地を求めて雄飛する者、国を守るために奮戦する者――再び集う豪傑たちが向かう先は……


 本作のベースとなった水滸後伝は、16世紀前半に成立したとみられる水滸伝に遅れること百数十年、1668年に陳忱が書いた作品。
 水滸伝ファンであれば誰もが結末にはなにがしかの不満を抱くものですが、それは数百年前でも同じこと、作者が自分なりの続編・後日譚を書いたのが本作であり――いわば二次創作であります。

 もちろんそのような作品は無数にあったと思われますが、しかし本作が現代まで残っているのは、その中でも非常に面白かったからにほかなりません。
 生き残りの豪傑たちはもちろんのこと、その他の原典の登場人物、豪傑たちの二世世代を散りばめて描かれる物語は原典の最も楽しい時期――すなわち、天に替わって道を行い、弱きを助け強きをくじく豪傑たちの野放図な活躍を描き、何よりもハッピーエンドなのですから嬉しい。

 当然、水滸伝ファンには必修の作品と思っていたのですが――しかし作者の言を見ると「原典の存在を知ってもらうだけでも、恥をかく価値はある、と考えて刊行してもらうことにした」と、何やら非常に控えめ。
 もしかして水滸後伝はマイナー作品なのかしら、と頭に上った血を下げて考えてみれば、確かにこの水滸後伝は、現在はアクセスしにくい作品であります。

 完訳は鳥居久靖による東洋文庫で全3巻が出ているのみ、抄訳も寺尾善雄による1巻本があるきりで、リライトに至ってはゼロ! いかに日本で水滸伝が不遇とはいえ、これはあまりに残念な状況であります。
 だとすれば、ここでこうして作者が水滸後伝をリライトしてくれるのは、大いに意味のある、素晴らしい試みであると言うほかありません。何しろ、水滸後伝が書店で平積みになっているのですから、痛快ではありませんか!


 と、中身にほとんど触れず恐縮ですが、この上巻で描かれるのは全三十回の原典の第二十二回まで。豪傑たちが登雲山や飲馬川という原典ファンには懐かしい地に集い、あるいは海を越えて金鼇島に拠る様が描かれることになります。
 しかし先に述べたとおり金軍の侵略は迫り、首都たる開封府までもが危うい状況。そんな中、(最近はスマホゲームでの登場で有名になった)あの男が登場して……という展開であります。

 さて、それでは本作のリライトぶりは、といえば、これが意外なほど原典に忠実な内容。全2巻とはいえやはりある程度ダイジェストされた部分はあるのですが、しかしこの上巻の時点では、原典の内容はほぼ全てフォローされているのは――と感じます。
 むしろ描写や説明についてはかなり丁寧な印象で、特にキャラクター描写については原典の不足をうまく補っていると感じられるところ。特にこの後伝で初登場の二世組のうちの二人――呼延ギョク、徐晟ら若武者の描写は、これまで梁山泊にいないタイプのキャラだけに、なかなか新鮮に感じられます。

 何よりも、全編にどこかあっけらかんとした、明るいムードが漂っているのが、気持ち良いのであります。


 さて、上巻では生き残りの豪傑たちの大半が登場しましたが、さて残る豪傑たちはどこにいるのか。そして上巻ラストで登場した謎の怪人の正体は(あと、こればかりは改変せざるを得ないと思われるあのキャラの扱いは)……
 下巻も近日中にご紹介いたします。


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新・水滸後伝 上巻

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