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2018.09.06

伊藤勢『天竺熱風録』第4巻 ついに開戦! 三つの困難と三つの力


 天竺・摩伽陀国で展開する陰謀に巻き込まれた唐の外交使節・王玄策の奇想天外な活躍を描く本作もいよいよ佳境。牢を脱出し、苦難の末にネパールとチベットの援兵獲得に成功した玄策は、ついに摩伽陀国に再び戻ってきたのですが――しかし本当の戦いはこれからであります。

 数年ぶりに訪問した摩伽陀国で、先代王の死に乗じて王座を簒奪したアルジュナによって理不尽にも捕らえられた玄策と唐の使節団。副官の蒋師仁と二人で牢を脱出した玄策は、仲間たちが時間を稼ぐ間に苦難の旅を続けネパール・カトマンドゥに到着、お得意の交渉術で、ついに援兵の獲得に成功します。
 さらにネパールを訪れていたチベットの兵までも加え、一路摩伽陀国に戻る玄策ですが――もちろん、この先には更なる苦難が待ち受けていることは言うまでもありません。

 確かに、美しくも勇猛な(そして兵に絶大な人気を誇る)ネパールのラトナ将軍、そして剛力と巨躯を誇るチベットのロンツォン・ツォンポ将軍という、対照的ながらもどちらも頼もしい味方を得た玄策。
 ほとんど無一物の状態から考えれば、天佑とも言うべき援兵ですが、しかしその数は八千――摩伽陀国という一国を相手にするには何とも心許ない数です。

 しかも、山岳や森林といった環境では無類の強さを発揮するネパール/チベットの兵ですが、摩伽陀国周辺は見渡す限りの平原。さらに、アルジュナには異能・異形の一団、アナング・ブジャリ――地祇を崇める謎に満ちた集団が味方についているのです。

 そしてたどり着いた国境で、早くも玄策たちは、この三つの困難と対峙することになります。そう、ここで待ち受けていたのは、アナング・ブジャリ出身の将・ヴァンダカ率いる三万の遊撃隊との大平原での戦いだったのであります……


 というわけで、緒戦からいきなり厳しい戦いを強いられることとなった玄策と仲間たち。何しろ立ち塞がる敵は「蟒魔(ヴリトラ)」の名の通り、蛇のような陣形と素早い動きで襲いかかる強敵。そしてそれを率いるヴァンダカは、獰猛な犀を馬のように駆る怪物です。

 しかしもちろん、玄策も決して負けるわけにはいきません。なるほど、玄策は戦いについては素人でありますが、彼には人間の心の動きを読みとる洞察力がある。知識がある。そしてクソ度胸がある。この三つがラトナとロンツォン、二人の武勇と合わされば……
 そして玄策はここで選ぶのは、あの名将・韓信が取ったが如き背水の陣。そしてこの先の展開は、ただ痛快の一言なのであります。

 敵の行動を読み切った玄策が陣を敷いて待ち構え、ラトナが攪乱し、ロンツォンが叩き伏せる――寡兵を以て多勢を討つというのはこうした物語では定番中の定番ではありますが、作者の画力で描かれれば、その痛快さは何倍にも高まります。
 さらに異形・異能のアナング・ブジャリに対しては、二人の将軍がそれぞれの持ち味を存分に活かして一騎打ちを演じるのですから、面白くないわけがないのであります。

 特にラトナの、奔る騎馬の上での、旗竿までも使ったアクロバティックな格闘は華麗の一言で(その前の攻撃開始時のアクションの美しさも含めて)一挙手一投足に釘付けになりました。


 さて、この巻の時点では玄策側が優勢ではあるものの、もちろんこの戦いは緒戦も緒戦。まだまだ敵が兵力を温存している中、この先の戦いの行方はわかりません。

 その一方で、アルジュナ側には、彼の非道を責める真っ当な精神を持つ息子・ヴィマル王子が登場。おそらくは彼の存在がこの戦いに何らかの影響を与えることになるかと思われますが……
 と、これまでは敵の首魁としてそれなりに威厳を保ってきたアルジュナ(と妻)が、王子の登場で一気に小物臭くなってしまったのは少々気になるところではあります(これはある意味原作どおりではありますが)。

 しかしこの漫画版は、この巻での合戦同様、原作に忠実に、そしてそれだけでなく、その行間を補うことでその魅力をさらに増している作品。それだけに、この先も期待して間違いはない――と思うのです。


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