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2018.09.10

芦辺拓『帝都探偵大戦』(その一) 夢の探偵オールスター戦!


 これまで無数に生み出されてきた「探偵」――そんな探偵たちの競演を夢見ないファンはいないでしょう。そして本作はその夢の正しく具現化した作品――江戸時代を、戦前を、戦後を舞台に推理を巡らせ、事件を解決してきた探偵たち実に50人が集結する一大クロスオーバーであります。

 ……いやいやいや、確かにそれは探偵小説ファンの夢ですが、幾ら何でも無理ではないか、と思う方もいることでしょう。しかしここで作者の名前を見れば納得していただけるのではないでしょうか。
 芦辺拓――これまで数々の本格推理小説を、それもそれ自体が不可能ではないかという設定や状況の下で成立してきた、そして何よりも、『金田一耕助VS明智小五郎』シリーズを代表に、数々の名探偵競演ものを発表してきた作家の名を見れば。

 そして本作は冒頭に述べたとおり、「黎明篇」(江戸時代篇)「戦前篇」「戦後篇」と、三つの時代それぞれで活躍した探偵たちが、相次ぐ謎の事件に挑み、協力して解決するという趣向のいわば連作集という豪華三本立て。

 二度刺された死体に消えた化け猫娘、謎の軽業盗人におかしな時の鐘、悪党たちが集まる怪屋敷、土砂が詰め込まれた棺桶――不可解な、時には事件なのかすらわからぬ謎に対して、三河町の半七、銭形平次、顎十郎、若さま侍、むっつり右門ら江戸時代に於ける隠れたるシャアロック・ホームズたちが挑むプロローグ的な位置づけの「黎明篇」。

 内蒙古の古都から帝大の探検隊が持ち帰ったという謎の秘宝――輝くトラペゾヘドロンをナチスが要求してきたことに始まり、帝都のど真ん中でカーチェイスを繰り広げた車が消失、麻布のホテルでは密室で口にミカンの皮を詰め込んだ男の死体が発見されるなど続発する奇怪な事件。
 さらには帝室博物館の金庫からトラペゾヘドロンが消失し、政府の要人たちが皆何者かとすり替わっているという恐るべき事件が発覚、さらに――と、第二次大戦直前、帝都を揺るがす奇怪な陰謀に、法水麟太郎と帆村荘六を中心とした探偵たちが挑む「戦前篇」。

 そして、法医学徒時代の神津恭介が遭遇した無惨に体中の前後を入れ替えられた「あべこべ死体」、明智不在の中で八剣産業の後継者のあかしである錠前を守らんと奔走する小林少年を襲う奇禍と、戦後の東京でも怪事件が続発。
 さらに衆人環視で絞殺された男、新聞社で少女探偵を襲う謎の怪人、そして大阪・広島・佐賀で発生した同じ凶器による密室殺人――東京のみならず日本各地で起きる数々の事件の謎を、警視庁捜査一課の名警部集団、各地から集結する探偵たち、そして新時代の少年少女探偵が解き明かす「戦後篇」。

 ……いやはや、探偵と探偵を競演させるだけでも大仕事なところを、三つの時代で総勢50人の探偵、さらにワトスン役も含めれば(そして名前だけ登場するキャラや敵役も含めれば)さらにその人数は膨れ上がるという、とんでもないスケールの本作。
 もちろん古今東西の名探偵を集合させるという試みは本作が初めてというわけではありませんが、しかしこれだけの人数は空前絶後と言うほかありません。

 しかもそれぞれの探偵に相応しい謎を用意し、そしてそれを全体で一つの本格ミステリとしてきっちりと成立させる――そんな考えただけで気が遠くなるようなことを実現してみせる手腕の、そして何よりも情熱の持ち主は、作者をおいて他にはいないでしょう。

 そして探偵小説においては、謎解きだけでなく、探偵自身の個性もまた大きな魅力であることを考えれば、その描写も欠かすわけにもいかないわけですが――しかしその点もぬかりはありません。
 ああ、「この探偵であれば絶対こんなこと言う!」と膝を打ちたくなるような言動の数々にはニヤニヤさせられっぱなしになること請け合いであります。
(それぞれの探偵の活躍場面では文体までも原典に合わせて変えてみせるのですから頭が下がります)

 特に「戦前篇」冒頭、お馴染みの熊城・支倉コンビから、輝くトラペゾヘドロンの存在を聞かされた時の法水麟太郎の台詞は最高で、是非この場面だけでもご覧いただきたい名場面であります。


 しかし――と、非常に長くなりますので次回に続きます。


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