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2018.09.15

畠中恵『つくもがみ貸します』(つばさ文庫版) 児童書版で読み返す名作


 現在アニメ放送中の『つくもがみ貸します』、アニメ紹介のためには原作も再読しなければ――と思ったのですが、以前紹介した作品をただ再読してもつまらない、というわけで、角川つばさ文庫版を再読いたしました。

 角川つばさ文庫はKADOKAWAの児童文学レーベル――他社の児童文庫同様、新書サイズの書籍に大きめのフォントとふりがなの本文、豊富なイラストというスタイルのレーベル。オリジナルの作品だけでなく、過去に一般向けに刊行されたSF・推理小説、ライトノベルのリライトも数多く(個人的な感覚では他社の児童文庫よりも多い印象)収録されています。
 それだけにこの『つくもがみ貸します』の収録も特に意外ではないのですが、しかし物語的には男女の関係の機微が中心にあるだけに、大丈夫なのかな――と思えば、ほとんどそのままの内容となっていたのには好感が持てました。(ちなみに対象年齢は「小学校高学年から」)

 ただ一箇所すぐ気付いたところでは、第1話に登場する深川の遊女・おきのの説明が「深川の旅籠で働いている女性」となっていた辺りは、苦労というか限界というかを感じましたが……


 さて、そんなわけで内容的には原著と全く変更のない本書。すなわち、深川の損料屋兼古道具屋・出雲屋を営むお紅と清次の姉弟が、店の気難しくも好奇心旺盛なつくもがみたちとともに、つくもがみや古道具絡みの事件に挑む以下の全5話が収録されています。

 格上の家に婿入りすることになった武士から、先方より譲られた根付けが足を生やして逃げ出したという事件の背後に潜む人の情を描く「利休鼠」
 料理屋を開こうとする男が居抜きで買った家に出没する幽霊。出雲屋のつくもがみ・裏葉柳は、その幽霊が自分の恋人ではないかと言い出して……「裏葉柳」
 お紅に想いを寄せる若旦那・佐太郎が別の女性から譲られたものの、いつの間にか消え失せ、佐太郎がお紅のために売ったと噂になった蘇芳の香炉。その手掛かりを掴んだ清次が、かつての謎を解く「秘色」
 かつて嫁入りしたくば佐太郎に贈られた櫛を使って大店を立て直すほどの金を用意してみせろと、佐太郎の母に挑まれたお紅。お紅と助ける清次、佐太郎の過去が語られる「似せ紫」
 四年ぶりに江戸に帰ってきたものの、お紅の前に現れず、行方不明となった佐太郎を探す清次。煮え切らない男たちに対するお紅の想いの行方が明かされる最終話「蘇芳」

 いずれのエピソードも、人間の起こした事件につくもがみが関わり、そして清次がつくもがみを利用してそれを解決するミステリ仕立ての内容。
 しかし清次とつくもがみが、単純な友人関係ではなく、ましてや使役される間柄でもないというのが、読み返してみても実に面白いところであります。

 あくまでも人間は人間、つくもがみはつくもがみ――両者は厳然と分かたれているものの、しかし同じ世界に住む隣人同士。面倒な間柄をどうクリアして事件の謎を解くか、という関係性の面白さは、そのまま清次とお紅という人間同士、いや男と女の関係性に重なっていくというのが、本作の何よりの魅力でしょう。

 もちろんこの児童文庫版の読者がその構図をストレートに読みとれるかはわかりません。
 しかし単純に妖怪ものとして見ても、身の回りの(もちろん江戸時代の、という限定付きですが)品物がつくもがみとなって動き、話し出すというのはやはり楽しく、一種マスコット的なつくもがみたちのキャラクターを見ているだけで、十分以上に楽しめるのではないでしょうか。

 少なくとも、大の妖怪好きだった(これは現在進行形ですが)子供の頃の自分が読んだらさぞかし夢中になったに違いない――そう感じます。


 ちなみに、本作は全5話のうち、半分以上の3話が、佐太郎と蘇芳の香炉にまつわるエピソード。第2話のラストから蘇芳が登場することを考えれば、物語の大半がこのエピソードに繋がることになります。
 これはもちろん、本作がそういう作品であるということであり、初読の時は全く気にならなかったのですが、今読み返してみると、それだけで終わるには勿体ない設定とキャラクターであったと感じます。

 現在放送中のアニメ版は、かなりのエピソードがオリジナルなのですが、原作の話数が少ないという以上に、原作の可能性を広げるという意味で、これも正しい方向性だな――と再確認した次第です。


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つくもがみ貸します (角川つばさ文庫)

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 『つくもがみ貸します』 第六幕「碧瑠璃」
 『つくもがみ貸します』 第七幕「裏葉柳」

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