« 澤見彰『横浜奇談新聞 よろず事件簿』 もう一人の福地、時代の影から物申す | トップページ | 『つくもがみ貸します』 第九幕「秘色」 »

2018.09.20

武内涼『はぐれ馬借 疾風の土佐』の解説を担当しました


 本日集英社文庫から発売の武内涼『はぐれ馬借 疾風の土佐』の解説を担当させていただきました。室町時代の土佐を舞台に、諸国往来御免の「はぐれ馬借」に加わった青年・獅子若の活躍を描くシリーズの第2弾――攫われた子を探す僧を助けて獅子若たちが死闘を繰り広げる室町アクションの快作です。

 先達が源義経から過書(通行許可証)を与えられ、諸国往来御免の特権を持つ「はぐれ馬借」。並外れた体躯と印地(石投げ)の腕で鳴らした馬借・獅子若は、ある事件がきっかけで坂本を追放された末に、このはぐれ馬借の一員に加わることになります。
 敵であっても命を奪わないというはぐれ馬借の掟に戸惑いつつも、徐々に仲間と馬たちにも馴染み、旅を続ける獅子若の冒険が描かれた前作『はぐれ馬借』。

 その続編である本作は、獅子若たちが鳴門海峡を越え、四国に入る場面から始まります。
 一仕事を終え、攫われた子を探しているという雲水の一人・昌雲とともに土佐に向かうことになった一行ですが、しかしその先に待ち受けるのは厄介事の数々。火付けの疑いをかけられ、土地の悪徳代官からは義経の過書を売るように執拗に迫られ、さらには獅子若に恨みを持つ凶賊・猿ノ蔵人率いる盗賊連合に追われ……

 四面楚歌の状況の中、己の命を、荷を、そして誇りを守るため、土佐の山林を舞台に、獅子若と仲間たちは、幾多の敵を向こうに回し、死闘を繰り広げることになります。


 というわけで、「飛び交う金礫、疾駆する荒馬! これぞ室町ウェスタン!」という帯の文句そのままのアクションが繰り広げられる本作。
 特に、獅子若をはじめとする登場人物たちが――この時代では弓矢を除いてほとんど唯一の飛道具である――印地打ちを得意とするだけに、作中では様々なシチュエーションで礫が飛び交うことになり、その面白さと迫力は、このシリーズならではのものと言えます。

 しかし、アクションがスゴい、ヒーローが強い――では終わらないのが武内作品の魅力であります。
 本作の主人公である獅子若は、単純な力という点では、作中屈指の存在であります。しかし、その力を振るって敵を倒せばそれで全てが解決するのか? そうではありません。力で勝つだけでは何かが足りない――その先にあるものを求めて、獅子若は悩みながら歩を進めていくことになります。

 人が人らしく生きるというのは如何なることなのか。そしてそのためには何が必要なのか――その道を常に問いかけ、辛く厳しくともその道を行こうとする人々を、作者は本作のみならず、その作品のほとんど全てで描いてきました。
 そしてそんな人々の姿は、室町という時代において、より大きな意味を持つことになります。それも、我々現代の人間にも無縁ではない形で。

 さて、それは一体どのような意味か――それはまあ、読んでのお楽しみということで、よろしくお願いいたします。


 というわけで、作品の紹介なのか、解説の紹介なのか、いささかこんがらがってしまいましたが、本作が、血湧き肉躍る時代活劇であるのと同時に、室町時代ならではの(そして現代にまで通底する)人間の姿を鋭く描いてみせた歴史時代小説であることは、私が保証いたします。

 獅子若の物語と平行して、ある歴史的事件に繋がる動きが描かれるのも気になるところで――まずは本作を通じて、この『はぐれ馬借』の世界、武内作品の魅力に触れていただければと思います。


『はぐれ馬借 疾風の土佐』(武内涼 集英社文庫) Amazon
はぐれ馬借 疾風の土佐 (集英社文庫)


関連記事
 武内涼『はぐれ馬借』 弱肉強食という悪循環を超える生き様を求めて

|

« 澤見彰『横浜奇談新聞 よろず事件簿』 もう一人の福地、時代の影から物申す | トップページ | 『つくもがみ貸します』 第九幕「秘色」 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/67186473

この記事へのトラックバック一覧です: 武内涼『はぐれ馬借 疾風の土佐』の解説を担当しました:

« 澤見彰『横浜奇談新聞 よろず事件簿』 もう一人の福地、時代の影から物申す | トップページ | 『つくもがみ貸します』 第九幕「秘色」 »