« 『つくもがみ貸します』 第九幕「秘色」 | トップページ | 伽古屋圭市『ねんねこ書房謎解き帖 文豪の尋ね人』 名作が導く二重構造の大正ミステリ »

2018.09.22

木下昌輝『宇喜多の楽土』 運命に逆らい続けた人間が掴んだ夢のかたち


 梟雄・宇喜多直家の姿を思いも寄らぬ角度から描き出した鮮烈なデビュー作『宇喜多の捨て嫁』から6年――その直家の子・秀家の生涯を描く物語であります。父とは全く異なるかに見える生を送る心優しき貴公子が父から託されたものとは、そしてその実現に全てを賭けた彼が得たものとは……

 身内であれ恩人であれ、自分の目的のためであれば容赦なくその命を奪う怪物として恐れられ、その罪の証のように業病を得た奇怪な人物として描かれた『宇喜多の捨て嫁』の直家。本作の物語は、その直家が秀家に後事を託して逝ったことから始まります。
 直家が秀家に託したもの、それは直家が着手した海岸の干拓事業――土地を失った流民のために新たな土地を、楽土を生み出すという父の意外な望みを知った秀家は、わずか11歳で家督を継ぎ、楽土建設を目指すことを決意するのであります。

 しかし宿敵・毛利との戦いは熾烈さ・陰湿さを増す上に、宇喜多の後ろ盾であった信長は本能寺に消え、新たな天下人となった秀吉への臣従を強いられる秀家。
 さらに、土地を召し上げ、代わりに禄米を支給しようとする彼の政策――宛行は、旧来の家臣の猛反発を受け、家中を二分する騒動に発展することになります。

 若き日に弱みを握られた秀吉からは過酷な軍役を課され、その秀吉亡き後には家康の専横に直面し――楽土建設の願いと、愛する豪姫の存在を支えに苦難の道を歩む秀家は、やがて関ヶ原の戦に臨むことになります。
 しかしその結果は完敗。敗軍の将として命を捨てようとした秀家が、その時目にしたものとは……


 本作の前日譚に当たる『宇喜多の捨て嫁』(両作の世界観が共通であることは、冒頭で明確に示されています)だけでなく、史実の上でも強烈なインパクトを持つ直家。その父に比べると、正直なところ、秀家の来歴はかなりおとなしく映ります。

 幼くして家を継ぎ、秀吉からは養女の豪姫を妻として与えられ、次代のエリートの一人として豊臣家を支えた秀家。その結果、家康らと対峙し関ヶ原で敗走、それでも生き延びた末に八丈島に流刑になる――なるほど波瀾万丈ではあります。
 しかし豊臣政権の閣僚としても関ヶ原に参加した将としても、その活躍は何故かあまり印象に残りません。大坂の陣に参加することも、大名に復帰することもなく、文字通り流されるまま生涯を終えた――そんな印象すらあります。

 しかし本作は、それが流れに乗ったものなどではないことを――それどころか、その流れに逆らい続けた人生であったことを描き出します。そしてその秀家の行動の根底にあったのは、彼自身の優しさと、それを実現せんとする強い決意であったことを。。

 流民の生きる土地を作りたい、落ち武者狩りに捕らえられた男を救いたい、友のために仇討ちに臨む男を助けたい……
 いずれも戦国大名としてみれば優しい、というより甘い彼の行動は、しかしその結果から逃げない(逃げられない、と言った方がよいものもありますが)その姿を通して見たときに、静かな感動を呼びます。

 民のためを考え、平和を夢見る戦国大名――それはフィクションにはしばしば登場するものの、しかし同時に、極めて胡散臭い、現実感の感じられない存在であることがほとんどであります。
 しかし本作はそんな戦国大名の姿を、優しさとは正反対の人生を送った、いや送らざるを得なかった父から譲られた楽土という「夢」を追い続けた秀家の姿を通じて、見事に現実感のあるものとして描き出したと言えます。


 残念ながら、『宇喜多の捨て嫁』の強烈なインパクトと構成の妙と比べると、秀家の生涯を真っ正面から描いた本作は、いささか素直すぎる印象があります(さらに厳しいことをいえば、そのインパクトあってこその本作の感動とも言えるかもしれません)。
 またキャラクターの個性の点でも、ある意味直家以上の怪物ともいえる宇喜多左京亮に比べると――この左京亮、ある意味実に作者らしい「怪物に作り替えられた人間」として印象に残ります――大人しすぎると言えます。

 それでもなお、いやそれだからこそ、結末で――史実(巷説?)を巧みにアレンジして描かれる――彼の選択の姿は、より鮮明に心に残るのであります。
 怪物ならぬ人間の身で、夢のために運命の流れに逆らい続けた男の誇り高い姿として……


『宇喜多の楽土』(木下昌輝 文藝春秋) Amazon
宇喜多の楽土


関連記事
 『宇喜多の捨て嫁』(その一) イメージに忠実な梟雄伝……?
 『宇喜多の捨て嫁』(その二) 「人間」という名の絶望

|

« 『つくもがみ貸します』 第九幕「秘色」 | トップページ | 伽古屋圭市『ねんねこ書房謎解き帖 文豪の尋ね人』 名作が導く二重構造の大正ミステリ »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 木下昌輝『宇喜多の楽土』 運命に逆らい続けた人間が掴んだ夢のかたち:

« 『つくもがみ貸します』 第九幕「秘色」 | トップページ | 伽古屋圭市『ねんねこ書房謎解き帖 文豪の尋ね人』 名作が導く二重構造の大正ミステリ »