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2018.09.26

平谷美樹『伝説の不死者 鉄の王』 伝説再臨 鉄を巡る驚愕の伝奇SF開幕


 昨年刊行され、作者ならではの鉄を巡る壮大な伝奇世界を描いてみせた『鉄の王 流星の小柄』。本作はその外伝にして前日譚、そして新たなる物語の始まり――前作に登場した謎の女、歩き蹈鞴衆の多霧の少女時代の冒険を描く、驚天動地の時代伝奇SFであります。

 歩き蹈鞴衆の一つ、橘衆の村下(頭)の長女である多霧。鉄を求めて一人山中を探索していた彼女は、越後山野領の山中で、別の蹈鞴衆が何者かに虐殺された現場に遭遇することになります。
 その場で生き延びていたのは、瀕死の深手を追った青年一人のみ。必死に青年の手当をする多霧ですが、しかし目を離した隙に、動ける状態でなかったはずの青年は「俺に関わるな」の言葉を残して姿を消してしまったのでした。

 消えた青年の身を案じながらも、一族のもとに帰った多霧。しかしそれを機に、橘衆は謎の武士たちの監視を受けることとなります。そしてついに始まる武士たちの襲撃――その混乱の中で、多霧は母と兄の一人を喪うこととなります。
 家族の仇を討つべく、怒りに燃えて城下に潜入した多霧。やがて彼女は、全てが伝説の不死の者・無明衆を求めての企てであることを知るのでした。

 そして生き残った橘衆たちとともに、仇の武士たちに決戦を挑む多霧。しかしその最中に、事態は全く予想もしなかった方向に動き出すことになります。
 山野領を揺るがす大異変の正体とは……


 前作においては、鉄と蹈鞴衆にまつわる陰謀を追う浪人・鉄澤重兵衛の前に現れ、彼を時に助け、時に導く形で暗躍した多霧と橘衆。
 その約10年前を舞台とする本作は、まだ多霧が13歳の少女であった時代――鼻っ柱は強く、負けず嫌いでありながら、まだ本当の修羅場を知らない多霧の姿が描かれることになります。

 実は作者の作品には、女性が主人公の作品、女性が活躍する作品が少なくないのですが、本作の多霧もその系譜に属するキャラクターであることは間違いありません。

 決して恵まれた生まれや暮らしでなくとも、その身に誇りを持ち、己の想いに真っ正直に生きる多霧。その姿は紛うことなき平谷ヒロインといえます。
 そんな彼女の活躍は、決して明るいばかりではない――それどころか、もしかすれば作者の作品でも屈指の量の血が流れる――本作に、大きな躍動感を与えていると言えるでしょう。
(もっとも、その少女時代の一つの終わりもまた、本作は描くのですが……)


 しかし本作はそれ以上に、凄まじいまでのスケールを持つ時代伝奇、いや伝奇SFでもあります。

 多霧たち蹈鞴衆――すなわち、製鉄の技を継ぐ者の間に語り継がれる伝説。それはかつて高天原から転がり落ちた神の鉄に触れて鉄の秘密と不老不死の体を手に入れ、人々に鉄を授けたという無明衆の伝説でありました。
(前作において、傷の治りが異常に早い重兵衛に、多霧が大きく心を動かす場面があるのですが、なるほど――と感心)

 彼らこそは本作のタイトルである「伝説の不死者」、本作の全ては、すなわち多霧の戦いは、その力を手に入れんとした者たちの暴挙から始まったと言えるのですが――しかし物語後半で、本作は驚くべき真実を描き出すことになります。
 その詳細はさすがにここで述べるわけにはいかないのですが、しかし登場人物たちのほとんどが、そしてもちろん我々読者が、真実のごく一端しか見ていなかったことを示す展開は驚天動地の一言。終盤のカタストロフィは、ここまでやるか!? と言いたくなってしまうほどのスケールであります。

 前作を紹介した際に作者のサイエンス・テクノロジー志向/嗜好について触れましたが、本作で描かれるのはSF作家としてスタートした作者が、その初期作品で描いてきたものに繋がるものである――そう言ってもよいのではないでしょうか。


 少女の成長と痛快な活劇(多霧の父が橘衆の根城を「梁山泊」と評するのにもニヤリ)、そして壮大な世界観――紛れもなく作者の作品でありながら、さらに新しい段階に踏み込んだことを感じさせる、壮大な物語の始まりであります。


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伝説の不死者: 鉄の王 (徳間時代小説文庫)


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