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2018.10.30

瀬下猛『ハーン 草と鉄と羊』第3巻・第4巻 テムジン、危機から危機への八艘跳び


 生き延びた源義経が海を渡り、ユーラシア大陸でテムジンを名乗って大陸制覇に乗り出す――そんな古典的な伝説を題材にしつつ、新たな物語を生み出してみせる『ハーン 草と鉄と羊』の第3巻&第4巻であります。いきなりの挫折からモンゴルに逃れたテムジン。そこから立ち上がる術は……

 兄・頼朝の手の者に追い詰められた末、ただ一人海を渡り、大陸に辿り着いた義経。そこで謎の男・ジャムカと盟友(アンダ)となった彼は、北方の3強の一つ・ケレイトのオン・ハーンの下に身を寄せるのですが――その首を狙った企てはあっさりと失敗、逃亡の果てにモンゴルに辿り着きます。
 そこでお調子者ながら、天下を夢見る青年・ボオルチュと出会い、彼の紹介で、今は亡きキャト氏の族長・イェスゲイの未亡人であるホエルンのもとに身を寄せた二人。しかし敵対するタイチウト族と二人が事を構えたことで、一族全体が危機に晒されることに……

 というわけで、これまで個人レベルの戦いは描かれていたものの、ついに集団レベルの――すなわち、兵を率いての戦いを経験することとなったテムジン。
 多勢に対して少数で策を巡らせて勝利する、というのはというのは定番中の定番ではありますが、源平合戦でも先進的過ぎる(と言われている)戦を繰り広げた男が戦うのですから、負けるはずはありません。

 ……と言いたいところですが、この戦いを収めたのは彼の力だけでなく、介入してきたケレイト軍の力あってこそ。しかしケレイトといえば、テムジンはその長の暗殺未遂犯であります。この時はごまかせたものの、いつかテムジンの存在がばれた暁には、ただで済むはずがありません。
 もちろん、テムジンも座して待つだけの男では当然なく、この戦いで勝ち得た名声をはじめ、使えるものは全て使って自分の勢力を広げるべく動き出すことになります。

 そんなテムジンにボオルチュは「あんたは俺のハーンだ」と語り、そしていまやオン・ハーンの義子となり、モンゴルで一番勢いがあると言われるジャムカも再登場。テムジンとジャムカ、二人のどちらかが高原を統一し、大陸を西進しようと希有壮大な誓いを交わすのでありました。
 しかしその前に、テムジンの首を狙い、ジャムカを追い落とそうとするケレイトの隊長・ダイルが立ち塞がります。そしてさらに、モンゴルにはオン・ハーンその人までもが姿を見せて……


 というわけで、危機から危機への八艘跳び状態のテムジン。普通の国盗り、普通ののし上がりだけでも大変なところですが、そこにテムジンとしての過去、義経としての過去が重なるのですから、さらにややこしい状況であります。しかしそれはもちろん、物語がそれだけ面白くなるということであることは言うまでもありません。
 第3巻のクライマックスがボオルチュと、そしてジャムカと大望を語るテムジンの姿であったとすれば、第4巻のクライマックスは、これは間違いなくテムジンとオン・ハーンの再会でしょう。

 かつて自分を殺そうとした男をオン・ハーンはどう遇するのか、そしてテムジンはそれにどう応ずるのか。
 実はこの二人の再会は、第3巻での次巻予告に取り上げられているのですが、そこで黒塗りにされていたテムジンの台詞にはさすがに仰天。あまりのテムジンの鉄面皮と、それを飲み込むオン・ハーンの腹芸にはただ唸るほかなく、二人のキャラクターが良く出た名場面と呼んでもよいのではないでしょうか。


 しかし、まだまだテムジンの向かう先には前途多難という言葉も生ぬるい困難が続きます。第4巻の終盤においては、テムジンと互いに関心を寄せ合っていたコンギラト族の娘・ボルテがメルキト武の変態じみた長に奪われ、テムジンは単身救出に向かうことになるのですが……

 第2巻に意味ありげに顔を見せたホラズム・シャー朝の少年のドラマも本格的に動きだし、こちらがテムジンの物語とどう交わるのか、それも気になるところであります。


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