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2018.10.11

山口貴由『衛府の七忍』第6巻 あの惨劇を描く作者の矜持


 ついに六人目の怨身忍者の物語が始まり、いよいよ物語も後半戦か、と思わせる『衛府の七忍』。しかしその一方で彼らの強敵となるであろう魔剣豪たちの物語も平行して描かれることとなり、ますます何が飛び出すかわからない状態であります。何しろこの巻で登場するのは、あの壬生の狼なのですから……

 と、表紙の時点で彼の正体は明らかですが、彼の出番はこの巻の後半1/3頃から。そこまで描かれるのは、第六の怨身忍者・霧鬼の物語なのですが――これがまた凄まじく重くいものを突きつける物語なのであります。

 かつて武田信玄の切り札として、三方原で徳川家康を惨敗させしめた巨大兵器――人間城ブロッケン。この人間城起動の鍵となる軍配を持つ若き大名・諏訪頼水は、今は主なき巨人を復活させ、家康への下克上を目論むのですが――その頼水が、一人の少女を見初めたことから、悲劇は始まります。

 その少女・てやは、かつて壬辰倭乱において日本軍が戦利品として連れ帰った「異民」の子孫。てやを連れ去る際、頼水がてやの主一家を皆殺しにしたことがきっかけで、てやの幼なじみであるツムグたち異民と、倭人の百姓たちの間に、これまで以上に険悪な空気が生まれることになるのでした。

 そしててやを巫女として、人間城を復活させんとする頼水ですが――しかし軍配を手にしたてやはその身に思わぬ存在を宿すことになり、頼水のコントロールを受けずに起動する人間城。
 その人間城が引き起こした数々の厄災が、異民たちと倭人たちの、諏訪家の武士たちとの間で、恐るべき惨劇を招くことに……


 山の民、ヤクザ、蝦夷、琉球の民、切支丹と、これまで虐げられた少数の民の中に顕現してきた怨身忍者の力。次なる民は――と思いきや、ついに彼らを描くのか! と驚かされると同時に不安にもなったこの霧鬼編。
 この難しい題材を如何に描くのかと思いきや、ヤンキーもの調(『パッチギ!』的と言うべきか)のテイストで日朝の若者たちの姿を描いてみせるのは、これは作者ならではのセンスというべきかと思いますが――しかしその先に待っていたのは、本作の約300年後に現実に起きたあの悲劇、いや惨劇をなぞるかのような展開であります。

 ここまで描いてしまうのか、描いてくれるのか!? と唸らされるこの展開、描くには相当の覚悟がいったのではないかと思うのですが――作者が単行本あとがきに参考文献の一つとして『九月、東京の路上で』を挙げていること、そしてその後に掲げられた作者の矜持を見れば、作者の心からの想いが、ここには込められていると思うべきでしょう。

 そして全ての想いを込めて誕生した第六の怨身忍者・霧鬼=ツムグと、拡充具足・無明をまとった頼水(恥ずかしながら、ここに至るまで頼水が伊良子清玄のスターシステムと気づきませんでした)。
 異民として生まれ、軋轢に晒されながらもなおも希望を失わぬ少年と、下克上を目指しながらも、「下」の民のさらに下を作って恥じぬ男と――その対決の行方は言うまでもありません。

 正直なことを言えば、わずか四話のうちにあまりに様々な要素を盛り込んだために、そのそれぞれがいささか消化不良のきらいがあり、展開が唐突に感じられる部分はあるのですが、しかし作者の心意気の前には、それは贅沢の言い過ぎというものかもしれません。


 そして次なる章は再び敵方となるべき魔剣豪鬼譚となるのですが――新たなる魔剣豪、その名は沖田総司! ……はい?

 そう、この章の主人公は正真正銘、あの新選組の沖田総司。すでに幕府が瓦解に向かう中、江戸で静養していた総司がいかなる理由にか江戸時代初期にタイムスリップしてしまうのであります!
 ……もはや新選組にタイムスリップというのも珍しくない印象もありますが、しかしそれだけで作品一つ成り立つような大ネタ。それをさらりと使ってしまう本作のパワーにはただ圧倒されるしかありません。

 しかしネタ的な面白さだけでは決してない本作。ここで描かれる総司の姿は、如何にも壬生狼らしい剣呑極まりない(冒頭、見舞いに来た永倉・原田とのやりとりは傑作)剣士ながら、しかし同時に若者らしい純粋さ、真っ直ぐさを持つ、実に好もしい青年として描かれるのが、強く目を惹きます。

 そんな総司が、この先如何なる経験を経て、魔剣豪と呼ばれるようになるのか――この巻のラストでは思わぬ夢の対決も飛び出し、この先の総司の凄春が気になって気になって仕方ない、そんな新章であります。


『衛府の七忍』第6巻(山口貴由 秋田書店チャンピオンREDコミックス)


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