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2018.10.19

許先哲『鏢人 BLADE OF THE GUARDIANS』第1巻 お喋り子連れ賞金稼ぎ、侠を見せる


 武侠ものの本場・中国のクリエーターによる武侠活劇漫画――隋朝末期を舞台に、凄腕ながらお喋り、そして子連れというユニークな賞金稼ぎを主人公とした大活劇であります。己の腕の他は頼むもの無し――まさに無頼の主人公が、荒野で死闘を繰り広げる相手とは!?

 物語の開幕早々描かれるのは、賊徒・響子組の根城に飄然と乗り込み、頭目相手に平然と取り引きを持ちかける一人の男――と彼が連れる一人の子供の姿。賞金首である頭目に対し、その三倍の額を払えば見逃してやるとふっかける男に、当然ながら頭目と手下たちは刀で以て答えとするのですが――しかしこの男、桁外れに強い。
 連れの子供に、目を閉じて九つ数えさせる間に手下たちを皆殺しにするや、ただ震え戦くしかない頭目から平然と有り金を奪って去っていく――これが本作の主人公・刀馬と、連れの七の初登場となります。

 さて、この二人が帰路に出会ったのは、砂漠に潜む食人鬼・羅刹の群れに襲われた人々の無惨な姿。
 ただ二人の(うち一人は無惨に顔の皮を剥がれた)生存者に助けを求められながらも、容赦なく駄賃を要求する刀馬ですが――彼らが六千銭の賞金首・双頭蛇を追っていることを知るや、一転手助けを申し出ます。

 そして顔なじみであり恩人である砂漠の町の大商人・莫から双頭蛇の行き先の情報を得る刀馬。
 しかし双頭蛇が潜むという赤沙町は、朝廷の役人・常貴人が権力を振るう死の街で……


 と、映画などでいえばアバンタイトルの部分から快調に展開していく本作。この第1巻の大半を占める第一章「遊侠」では、赤沙町を舞台に、刀馬と常貴人、双頭蛇の三つ巴の死闘が描かれることとなります。
 かつては無法の町として恐れられたこの町に赴任し、法による支配を敷いた常貴人。しかしその法とはまたの名を暴力と恐怖――逆らう者は見せしめに街の周囲に吊すという、絵に描いたような恐怖政治によって、この町は支配されていたのであります。

 そんな常貴人――もちろん単なる役人であるはずもなく、七尺はありそうな身の丈に男色家の気配もある怪人――に何故か気に入られた刀馬ですが、もちろんそんな相手に膝を屈するようでは武侠ものの主人公は務まりません。
 意外なところ(……と言いたいのですが、これはまあ定番の展開)から現れた双頭蛇を巡り、刀馬と常貴人の、いやそこに双頭蛇も加わって、誰もが「二対一」のメキシカンスタンドオフ状態からの大殺陣は、最初のエピソードのクライマックスに相応しいテンションと密度の高さ、そして迫力を大いに満喫させてくれました。


 しかしこのエピソードの、そしてとりもなおさず本作の最大の魅力は、刀馬という男の存在そのものにあるといえます。

 少々――いや大いに癖のある、ストレートいハンサムとは言い難いビジュアル(あとがきである俳優がモチーフと知って納得)の刀馬。
 しかも四六時中減らず口を叩いているような男なのですが――しかしそんな彼が抜群に格好良く感じられるのは、その彼独特のキャラクター、生き様に依るところが大と言えます。

 死にかけた人間を助ける時であっても平然と金をふんだくろうとするかと思えば、死んだ人間の物が落ちていても拾おうとはしない(まあ、例外はありますが)。
 相手への貸しは必ず取り立てる一方で、借りは必ず返す。そして何よりも、権力の横暴には決して与しない――そんな彼なりの美学は、力が全ての荒んだ世界によく似合っているようでいて、しかし同時に極めて似つかわしくないものとして映ります。

 その気になればもっと利口に、甘い汁を吸って生きることができそうなところに敢えて背を向け、己の美学に従って生きる――その生き様はまさに「侠」。そんな男が格好良くないわけがないのであります。


 そしてこの巻の終盤から始まる第二章「大漠」では、意外な過去と朝廷との繋がりが語られることとなる刀馬。
 莫の娘・アユアとともに、隋を転覆させると嘯く謎の仮面の男・知世郎を長安に護送することになった刀馬と七の前に何が待つのか、そしてかつて何があったのか。

 気になることだらけの新ヒーローの物語は、まだまだ始まったばかりなのであります。

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