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2018.10.16

谷津矢車『しょったれ半蔵』 戦国にもがく半端者たちの物語

 忍びの生き方に反発して家を飛び出し、武士としての立身を目指す服部正成。しかし初陣で再会した父・服部半蔵保長は、謎の忍び・梟に討たれてしまう。心ならずも父の跡を継ぐことになった正成は、武士にも忍びにもなりきれない半端者(しょったれ)ながら、家康を助けて東奔西走するが……

 服部半蔵正成といえば、忍者の代名詞のように思われる人物。しかし史実を見てみれば、確かに伊賀甲賀を束ねていたものの、その活躍は武将としてのものと感じられます。
 本作はそんな半蔵正成の虚名と実像――その間を題材に描く、半端者「たち」の物語であります。

 幼い頃から服部半蔵保長の嫡子として育てられながらも、後ろ暗い仕事ばかりを担わされ、周囲の武士たちから見下されることに嫌気がさしていた正成。
 ある日、初の任務として親友の渡辺守綱(後の槍半蔵)暗殺を命じられた正成はこれに反発し、守綱の郎党として武士としての立身を目指すことを決意します。

 そして守綱と、幼馴染みの稲葉軍兵衛と三人、桶狭間の戦直後で揺れる松平家を扶けるべく奮闘する正成。
 しかし初陣である鵜殿長照の上ノ城攻めの最中、任務を妨害する怪忍・梟によって父・保長が討たれ、正成は全く望まぬまま、服部半蔵の名を継ぐことを余儀なくされるのでした。

 かくて、「志能備」の末裔だという幼馴染みの冷徹な女忍・霧に叱咤されつつ、半蔵は松平家――徳川家を襲う数々の難事に立ち向かっていくのですが……


 という設定で、全八話の連作形式で半蔵の半生と徳川家の興隆を描いていく本作。
 上に述べた第一話に続き、三河一向一揆、掛川城の戦い(の後始末)、姉川の戦い、三方ヶ原の戦い、徳川信康の切腹、本能寺の変から神君伊賀越えと、戦国期の徳川家を揺るがした戦いや事件――そしてそこに関わった半蔵の活躍(?)が本作では描かれることとなります。

 と、ここで活躍(?)と書いたのは、本作における半蔵は、武士としても忍びとしても、いや人間としても、どうにも半端者であるからにほかなりません。
 忍びの修行を途中で放り出して武士になり、槍一つで身を立てようとしつつも、厄介事にばかり巻き込まれてなかなか思うに任せない。おまけに極度に緊張すれば喘息の発作に襲われる――そんな有様なのであります。

 それでも、父や周囲から押しつけられた生き方ではなく、自分自身の生き方を確立すべく、周囲に翻弄されまくりつつも懸命に生きる半端者・半蔵の姿は、これは実に作者らしい物語として実に魅力的であります。
 しかし――本作で描かれる半端者は、一人彼のみではありません。

 本作の各話に登場するゲストキャラクターたち――市場殿(家康の異母妹)、今川氏真、徳川信康、さらには徳川家康も含めて、いずれも己の置かれた立場に悩み、何とかして自分自身の生を掴もうとあがく者として描かれます。
 そう、彼らもまた、自己を確立できない半端者たちなのであります(そして終盤において、強烈な形でもう一人の半端者の存在が明かされるのですが……)

 デビュー以来ほとんど一貫して、時代に――自分の周囲の環境に翻弄されつつ、自己らしく生きるため、自分らしさを見つけるために奮闘する人々の姿を、「今の我々」に重ねる形で描いてきた作者。
 本作は半蔵という若者だけでなく、その周囲の人々の奮闘も描くことによって、より豊かな形でその物語を描くことに成功していると言えるでしょう。


 尤も、忍者ってそういう存在なのかしら――という設定と描写には首を傾げざるを得ないのですが、これもまた、一つの象徴と言うべきでしょうか。

 何よりも、徳川家康が今川家から、そして織田家の下から離れた時を以て、同時に半蔵のモラトリアムの終わりを告げる構成は心憎く、作者ならではの忍者小説と表すべき作品であることは間違いないのですから……


 ちなみに作者のファンにとって嬉しいのはヒロイン(?)の霧の存在であります。

 作者の『ふたり十兵衛』に登場する女忍と同名にして同様の性格のキャラクターである彼女は、所謂スターシステムのファンサービスかと思いきや――という設定に驚かされつつ、同時にそれが変わろうとする半蔵の存在と対になるものともなっているのには、ただ脱帽であります。


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