« 『忍者大戦 黒ノ巻』(その一) 本格ミステリ作家による忍者大戦始まる | トップページ | 『お江戸ねこぱんち 紅葉狩り編』 »

2018.10.05

『忍者大戦 黒ノ巻』(その二) 忍者でバトルでミステリで


 本格ミステリ作家5人による忍者バトルアンソロジー『忍者大戦 黒ノ巻』の紹介の後編であります。いよいよ後半戦、こちらもこれまでに負けず劣らず、いやこれまで以上にユニークな物語が描かれることとなります。

『下忍 へちまの小六』(山田彩人)
 タイトルからして少々脱力ものの本作は、しかし本書の中で最も頼りなく、そして不気味な忍者が登場する物語であります。
 織田軍による二度目の伊賀攻めが間近に迫る中、偵察中に織田軍に追われることとなった風間十兵衛と配下の下忍たち。その中でも最も能なしの老忍(といっても三十過ぎなのですが)・へちまの小六を囮に脱出した一行ですが――生き延びたのは十兵衛と、何故か小六のみでありました。

 小六は植物の栽培が趣味で、作物を周囲に配ることから人気はあるものの、忍者としてはこれといった特技もない男。それにもかかわらず、これまでどんな困難な状況からも生還してきた小六に運の良さだけでは説明できないものを感じた十兵衛は、何とかその秘密を解き明かそうとします。
 ついに小六を罠にかけ、同じ伊賀忍びに襲わせることとした十兵衛。そして彼が知った真実とは……

 一種の能力バトルとも言うべき忍者ものにおいては、自分の能力は極力秘密にするというのが定番。しかしそもそもその秘密があるのかないのか――本作はそんな謎めいた、どこかすっとぼけた男の姿を描き出します。
 しかしその先にあるものは――ここでは書けませんが、最近時代ものでもしばしば見かけるアレかと思いきや、そこに一ひねりを加えたアイディアが面白くも恐ろしい。そしてそれが、下忍たちを弊履の如く使い捨てにする忍者という社会への、ある意味強烈な皮肉となっている点にも注目であります。


『幻獣 伊賀の忍び 風鬼雷神』(二階堂黎人)
 ラストに控えし作品は、ある意味本書で一番の問題作であります。

 まだ大坂に豊臣家があった頃、反徳川の動きを探るため、甲府に送り込まれた山嵐と桔梗の二人。しかし二人の連絡が途絶え、探索に向かった三人の忍びも消息を絶ち、江戸に届いた「<霧しぶく山><三つ首のオロチ><幻惑>」と記された血文字。服部半蔵はこれを受けて、風鬼と雷神の二人が派遣されるのでした。

 山嵐との間の赤子を育てていた桔梗から、探索に出かけた山嵐が真っ黒焦げの死体となって発見されたと聞かされた二人。藩の鍛錬所に潜入した風鬼は根来衆に襲撃され、昔から神隠しが相次ぐという霧谷山に向かった雷神は、恐るべき<三つ首のオロチ>の襲撃を受けることに……


 とにかく、手裏剣も効かぬ強靱かつ巨大な体に、口から業火を吐く三つの首を持つ怪物という、三つ首のオロチのインパクトが絶大な本作。忍者vs怪獣というのはある意味夢のカード、さらにそこに、ある者は骸となり、またある者は消息を絶った四人の忍びの謎が絡み、エンターテイメント度では本書でも屈指の作品と言えます。
 が、実際のところはまさしく大山鳴動して――といったところで、特撮時代劇では一作に一回はあったエピソードの小説化という印象。小説として見ても苦しいところも多く、正直なところどうなのかなあ――と思わざるを得ませんでした。


 以上5作品、参加した天祢涼の言によれば「忍者が戦って、ちょっとミステリ風味な短編を集めたアンソロジー」というコンセプトだったとのことですが、まさにそれを体現した作品揃い。
 それでいて様々な意味でこれだけバラエティに富んだ作品が揃うというのは、まさにアンソロジーの楽しさが現れていると言えるでしょう。

 個人的にはもう少し一冊として統一感を持たせた内容でもよいのかな、という印象もないではありませんが、この混沌とした楽しさもまた、一つの魅力と言うべきでしょうか。
 何よりも、普段時代小説とは縁遠い作家の方々が、こうして時代小説に挑戦して下さるというのが嬉しいことは言うまでもありません。

 9月には本書と対になる『忍者大戦 赤ノ巻』も刊行されたところ、もちろんそちらの方もご紹介させていただく予定です。


『忍者大戦 黒ノ巻』(光文社文庫) Amazon
忍者大戦 黒ノ巻 (光文社時代小説文庫)

|

« 『忍者大戦 黒ノ巻』(その一) 本格ミステリ作家による忍者大戦始まる | トップページ | 『お江戸ねこぱんち 紅葉狩り編』 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/67226201

この記事へのトラックバック一覧です: 『忍者大戦 黒ノ巻』(その二) 忍者でバトルでミステリで:

« 『忍者大戦 黒ノ巻』(その一) 本格ミステリ作家による忍者大戦始まる | トップページ | 『お江戸ねこぱんち 紅葉狩り編』 »