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2018.10.02

鳴神響一『仇花 おいらん若君 徳川竜之進』 二重の籠の鳥、滝夜叉姫に挑む


 吉原で評判の花魁が、実は尾張徳川家の御落胤だった! という大変なインパクトの設定に負けないドラマを描いてみせた『おいらん若君 徳川竜之進』の第二弾が早くも刊行されました。目撃したものは呪い殺されるという妖術使い・滝夜叉姫に竜之進と臣下たちが挑むことになります。

 八代将軍吉宗のライバルであった尾張藩主徳川宗春の嫡男として生まれながらも、藩内の争いに巻き込まれ、赤子のうちにくノ一・美咲と、四人の遣い手・成瀬四鬼によって救い出され、江戸に隠れ住むこととなった竜之進。
 執拗に竜之進を狙う御土居下衆の目を逃れ、吉原に潜んだ主従。そこで美咲はなんと竜之進を表向きは女――それも花魁として育てることで、周囲の目を欺くのでした。

 かくて決して男に靡かぬ花魁・篝火として吉原の名物となった竜之進。その一方で彼は密かに吉原を抜け出し、旗本の四男坊を名乗って太田直次郎(若き日の大田南畝)らとともに交遊する日々を送るようになります。
 そんな中で出くわした江戸を騒がす悪に、竜之進は四鬼破邪顕正の刃を振るうことに……


 というわけで、非常に盛りまくった主人公の設定に驚かされるのですが、しかしその設定を巧みに整理し、きっちり痛快娯楽時代小説として成立させているのが本シリーズ。
 今回竜之進と配下たちが挑むことになるのは、残暑の江戸の夜を騒がす謎の妖女・滝夜叉姫一味であります。

 滝夜叉姫といえば言うまでもなく平将門の娘にして、父の無念を晴らすために妖術使いとして暴れ回ったという女怪。
 その滝夜叉姫が、丑の日の晩になるたびに、谷中に現れると聞きつけた竜之進。しかも滝夜叉姫に出会った者は五寸釘を胸に刺されて死ぬため、避けるためにと成田山新勝寺のお札が飛ぶように売れている――といかにも胡散臭い話まで出てくれば、黙っていられるわけがありません。

 前作で知り合った田沼意次からの依頼もあり、滝夜叉姫の正体を追う竜之進。しかしその一方で、吉原では深夜に不審な小火が連続し、彼の周囲はにわかに騒がしくなって……


 その身の上のことを考えれば――そして美咲をはじめ周囲の者が口を酸っぱくして言うように――悪事に対して自ら乗り出す必要は全くない竜之進。
 それでも彼が世のため人のために飛び出していくのは、もちろん彼の周囲で事件が起こったから――という理由はありますが、それ以上に、性別を変えてまで自分自身を押し殺さなければならないという鬱屈から来ているというのが、面白くも切ないものがあります。

 どれだけ美しく着飾ろうとも、どれだけ多くの者に求められようとも、やはり花魁は籠の鳥――尾張徳川家の身分を隠して生きることを強いられる竜之進は、二重の意味で籠の鳥ということができるのではないでしょうか。
 だとすれば、彼が悪に命を懸けて挑むのは、この籠から飛び出すための行為の代替となのかもしれません。

 そしてこれはあまり詳しく書くわけにはいかないのですが、まさにこの点において本作の敵と竜之進は好一対とも言うべき関係にあるのがまた、実に面白いのであります。


 と、大いに楽しませていただきつつも、本作にはいささか気になる点もあります。

 吉原が巻き込まれるという要素はあるものの、前作に比べると、彼自身の事件とするにはいささか関係が薄いと感じられるのがその一つ。
 もっともこれは、上で述べたように実はあまり大きな要素ではないのかもしれませんが、それでも彼が戦う必然性がもう一つあってもよかったと――前作がそうであっただけに――感じます。

 そしてそれ以上に引っかかるのは、江戸の夜を騒がす怪事に竜之進が首を突っ込み、さらにそこに田沼意次の依頼が――という物語展開が、前作とほとんど同様に感じられる点。
 火付けの手口にもどこか既視感があり、本作ならではの魅力という点からすると、一歩引いた印象があります。

 そんなこともあり、そろそろ本シリーズならではの事件と敵が――すなわち、尾張徳川家が絡む事件、母の仇である御土居下衆との戦いが見たいというのが正直なところではあります。
 インパクトに満ちた設定を120パーセント活かした物語の展開に期待いたします。


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