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2018.11.08

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第13巻 物語を彩る二つのテクニック、そして明らかになる過去


 刀鍛冶の里編もいよいよバトルが本格化し、佳境に入った『鬼滅の刃』。里を襲撃する上弦の鬼2体を迎え撃つ炭治郎、禰豆子、無一郎、そして玄弥ですが、上弦たちの奇怪な能力の前に窮地に立たされることに……

 日輪刀を打つ刀鍛冶たちが住まう刀鍛冶の里。厳重に秘匿されたその里で、慌ただしくもそれなりに平和(?)な時間を過ごしていた炭治郎ですが、そこに上弦の伍・玉壺と上弦の肆・半天狗の二人が出現したことで、里には血風が吹き荒れることになります。
 そして突如現れた半天狗と対決することになった炭治郎。一見非力ながら、斬られるたびに、空喜・積怒・哀絶・可楽と名乗るそれぞれ異なる能力を持った四人に分裂する半天狗を前に、炭治郎、そして鬼と化して参戦した禰豆子は大苦戦を強いられるのでした。

 と、そこに現れたのは、炭治郎の同期最後の一人である不死川玄弥。短期間のうちに体格が急激に変化したり、抜けた歯がいつの間にか生えていたり、何よりも炭治郎に異常に敵意を燃やしたりと不審な点も多い玄弥ですが、二連のショットガンという本作では珍しい武器を用いて半天狗と戦う姿はなかなかに頼もしいものがあります。
 かくて戦いは炭治郎vs空喜、玄弥vs哀絶、禰豆子vs可楽という団体戦の様相を呈することになる一方、霞柱・時透無一郎は、奇怪な魚(?)を操り、里の刀鍛冶たちを惨殺していく玉壺と対峙することになって……


 と、これまで嫌というほど強豪ぶりを見せつけてきた上弦の鬼が二人も出現という絶望的な状況でのバトルが描かれるこの巻。
 半天狗は「ヒィィィィ」と悲鳴を上げてばかりの老人のような姿、玉壺は壺から現れる無数の短い手を生やした蛇のような体の持ち主と、奇怪なデザインの敵が多い本作においても屈指の異形ですが、それだけに――というべきか、その能力のトリッキーさも群を抜いたものがあります。

 そしてその敵を相手に繰り広げられるのは、上で述べたように半天狗と玉壺、それぞれを相手に炭治郎たちが繰り広げる二元中継――いや、三元四元中継のバトル。
 敵も味方それぞれの特徴的な能力が入り乱れる戦いは一歩間違えるととっ散らかりかねないところですが、そこをギリギリのところ(半天狗の分身たちは結構見分けがつきにくい)で捌いてみせるのは、口で言うのは簡単ですが、相当なテクニックであります。

 いわばこの巻で繰り広げられるのは、登場キャラクターたちのテクニックと作者自身のテクニック、その双方の競演というべきものでしょうか。


 そして本作の最大の魅力と言うべき、そのバトルの中で浮かび上がるキャラクターたちの人間性の描写ももちろん健在であります。

 この巻でスポットライトが当てられるのは、登場自体は相当前だったものの、ほとんど新キャラに近い(名前がわかったのもごく最近という)存在である不死川玄弥。
 上で述べたように不審な行動も多い上に、バトルの中では明らかに常人ではない――というより人間ではない回復力を見せる彼は、一歩間違えれば悪役にも見えかねないキャラクターなのですが、今回描かれるその過去が、その印象を完全にひっくり返すことになります。

 その姓を見ればわかるように、風柱・不死川実弥の弟である玄弥。しかし実弥は俺に弟などいないと言っているという情報が前巻で語られ、複雑な事情が窺われた兄弟ですが――この巻で描かれた彼らの過去は凄絶と言うほかありません。
 そしてそのある意味炭治郎と禰豆子と対になる過去の悲劇を見れば、玄弥が、さらに言えば実弥がこれまで何故あのような行動を取ってきたのか、その一端が明らかになるとともに、これまで憎々しい存在に見えてきた彼らに、一瞬のうちに感情移入させられてしまうのです。

 これまで何度も、登場キャラクターたち――それもつい先程まで戦っていた人食いの鬼たちですら――の人間性をほんの僅かなページ数の中で描き出し、印象を一変させてきた本作ですが、今回もやられた! と大いに唸らされた次第です。

 そしてもう一人、前巻で炭治郎をして「すごく嫌!!」と言わしめた冷徹さが描かれた無一郎も、その人間性の一端を見せ始めた印象。さらに恋柱・甘露寺蜜璃も参戦し、いよいよ激化するバトルの決着はどうなるのか――気になるところだらけであります。


 そして毎回意外な事実が明らかになるおまけページ、今回は柱の中でも異様な存在感を持つ悲鳴嶼行冥の意外すぎる姿が……(一瞬、キメツ学園の方の設定かと)


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