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2018.11.22

「コミック乱ツインズ」2018年12月号


 号数上は今年最後となるコミック乱ツインズ12月号は、単行本第1巻が発売となった『用心棒稼業』が表紙、巻頭カラーは『鬼役』であります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介したします。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 前回、尾張藩主・徳川吉通が放った刺客団を自宅で迎え撃ち、壊滅させた聡四郎。しかし十数人もの死体はそこに残ったわけで、その後始末が――と、いきなり現実的な(?)問題が発生することになります。どうするかと思えば、聡四郎が声をかけたのは相模屋と西田屋。口入れ屋と女郎屋が淡々と遺体を処理していく姿には、政治経済の闇よりももっと深い闇を見てしまった気が……

 それはさておき、相模屋では聡四郎・伝兵衛・袖吉と紅さんを加えての作戦会議。再び家が狙われることがないようにするためには権が必要、しかし権を振るえばこれまで自分が戦ってきた権力亡者の仲間入りをしてしまうのではないか――それを恐れる聡四郎に、自分がいるから大丈夫、と笑顔で宣言する紅さんのヒロイン力が最高であります。
 そして袖吉が普請場で目撃した出来事から増上寺の霊廟に秘密があると察し、玄馬・袖吉とともに潜入した聡四郎を待ち受けていたのは4人の僧兵。思わぬ強敵を前に聡四郎たちは――というところで次回に続きます(にしても袖吉は情報収集の上に戦力にまで数えられていて真剣に有能過ぎです)。


『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視)
 周囲の腫れ物を触るような扱いに不満を募らせていたところに、宗桂にまで対局で手心を加えられ、本気で将棋を指すために江戸城を抜け出した十代将軍家治。相手を求めて足を踏み入れた将棋会所でそうとは知らずに家治にボロ負けした田沼勝助は、強い奴を連れてくると宗桂を呼びに行くのですが、事態はさらにややこしいことになっていて……

 と、ある意味時代劇では定番の、偉い人のお忍びが騒動を起こして――というエピソードである今回。なるほど、考えてみれば宗桂の本職は将軍の将棋の相手であるわけで、なるほどこういう話も本作ではできるのか、とちょっと感心いたしました。
 それにしてもヒロイン(?)お香の物理的なメチャクチャな強さにも驚きますが、やはり今回のハイライトは、家治にはこれまで秘め隠していた「本気」を宗桂が見せる場面でしょう。普段出せないその「本気」を描くために、今回のようなお忍びエピソードが必要だった――と思えば、実に面白い趣向であったと思います。


『カムヤライド』(久正人)
 待望の連載再開となった今回は、出雲編のエピローグ。前回、死闘の末に出雲の国津神・高大殿(タカバルドン)が封印された直後に起きた異変が描かれることとなります。

 土蜘蛛(国津神)を倒す力を持つ謎の剣で、モンコとヤマトタケルを助けた青年・イズモタケル。しかし高大殿が倒された直後、その剣が彼の腕と一体化し、その体の主導権を奪ってヤマトタケルに襲い掛かるではありませんか。しかしカムヤライド=モンコは強敵との戦いの果てに意識を失っており、戦えるのはヤマトタケルのみながら、彼の持つ弓・弟彦公では相手にトドメを刺すことはできません。イズモタケルは、敵を倒すために自分を殺してくれと願うのですが……

 仲間が敵に取り憑かれ、傷つけるわけにいかずに苦悩する――というのはヒーローものの定番パターンの一つですが、そのヒーローたるカムヤライドが戦闘不能となっていることで、さらに絶望的な状況となっている今回。ただ倒すだけでも大変なところに、イズモタケルの命を救うことができるのか、と大いにハラハラさせられるのですが――ここでヤマトタケルがもう一人のヒーローとして立ちあがるのが素晴らしい。
 考えてみればこの出雲編は、大和の王族である自分と、一人の人間である自分との間で悩みながらも、自分の道を――ヒーローであるモンコ、ある意味自分の鏡であるイズモタケルを通じて――ヤマトタケルが掴む物語でありました。だとすればその結末は、彼が決めるのは必然なのでしょう。

 本作のヒーローは一人ではないことを示してくれる、気持ちのよいエピソードでした(しかし活躍するたびに脱がされるヤマトタケル……)。


 その他、『用心棒稼業』(やまさき拓味)は初の連続エピソード。元鬼輪番・夏海の前に、とある藩に草として入り込んでいた彼の旧友にしてライバルが現れて――と、ただでさえ重いエピソードが多い夏海編でも、最も重い内容になりそうな、いや既になっており、次回が気になります。
 しかしその友のことを作中で「同鬼の友」と呼ぶのは、強烈に「らしい」……


「コミック乱ツインズ」2018年12月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年12月号[雑誌]


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