« 須垣りつ『あやかし長屋の猫とごはん』 少年を広い世界に導くおかしな面々 | トップページ | 柳広司『吾輩はシャーロック・ホームズである』 ホームズになった男が見た世界 »

2018.11.14

室井大資『レイリ』第5巻 修羅場を超え、彼女が知った意味


 武田勝頼の嫡男・信勝の影武者となった死にたがりの少女・レイリを描く物語も、これではや第5巻であります。織田方による高天神城攻めに対し、命の恩人を救うために単身城に潜入したレイリ。そこで彼女は、若い城兵たちを逃すため決死の任務に挑むことになるのですが……

 信長の命により高天神城を攻める家康軍に対し、救援の兵を送らぬと決めた武田家。しかし城の守将は足軽たちに家族を殺された自分を救い育ててくれた岡部丹波守、恩人を見殺しにすることはできない――と、レイリは単身城に潜入し、丹波守と再会することになります。
 しかしもちろん、如何にレイリが類希なる戦闘力の持ち主といっても、ただ一人で戦況を覆せるわけがありません。そこで丹波守はレイリに対し、若い城兵たちを連れて人一人が通るのがやっとの尾根道・犬戻り猿戻りからの脱出を命じるのでした。

 というわけで、前巻ラストから引き続いてこの巻の前半で描かれるのは高天神城からの脱出作戦。しかし尾根道といっても敵がこれを見逃すはずもなく、味方を逃がす間の時間稼ぎが必要なわけですが――これこそがもちろんレイリの出番であります。

 単身出撃すると、待ち受ける敵兵をある時は刀で、ある時は弓で斃し、そして馬が鉄砲で撃たれればその亡骸を壁代わりにして敵兵をスナイプしていくという恐るべき戦いぶりを見せるレイリ。
 が、しかしそれも所詮は時間稼ぎ、ついに城が落城し、前方だけでなく、後方からも敵兵に挟み撃ちされることとなった彼女は、城兵たちを連れて逃れるものの、文字通り刀折れ矢尽きる形で、雑兵たちに取り囲まれて……


 と、文字通りの修羅場が続いた前半に対し、後半は表向き平和な甲府を中心に、武田家中を舞台とした物語が展開いたします。

 武田を根絶やしにせんとする信長に対し、如何に負けず戦い抜くか――信勝はその策としてなんと籠城を発案、その場として小山田信茂の守る岩殿山をレイリと共に視察することになります。
 ここで信茂の前で信勝が語る策が、ある意味実に壮大で面白いのですが――その合間合間に信勝やレイリが見せる若者としての素の表情もまた面白い。

 本作は戦国ものでありつつも、「派手な」場面はむしろ少な目(来るときはドッと来ますが)という印象ですが、それ以外のいわば「平時」で描かれる人々の姿もまた魅力的であると、今更ながらに再確認させられます。
 もっとも、その「平時」がそう長くは続かないことを、我々は知っているのですが……


 しかしその「平時」を望まない――「死にたがり」だったレイリに、大きな心境の変化が訪れたことが、この後半において示されることになります。

 かつて己の眼前で、自分を庇った家族が惨殺されたのを目の当たりにして以来、早く戦いの中で殺されて家族のもとへと行くことを望むようになったレイリ。
 この主人公の強烈な設定こそが、本作の大きな特徴だったわけですが――しかしここでレイリは、その「死にたがり」を、自らの口から否定するのであります。

 彼らは何のために死んだのか、そして人は何のため戦い、生きるのか――その意味をついに彼女が知った、と文字で書くのは簡単です。しかし恩人である丹波守の死を経験した彼女が語る言葉は、どこまでも重く、そして同時に清々しく感じられるのです。


 そして結末においては、全く思わぬ形で、レイリにもう一つの重大な転機が訪れることになるのですが――死にたがりを止め、そして一つの役目を終えた彼女が、この先如何にして新たな生を生きることになるのか。
 いや、この先の生があるとは限りません。いよいよ信長が武田家殲滅を決定、最後の戦いがいよいよ始まろうとしているのですから……

 おそらくはこの物語もあとわずか、少なくともその時までにレイリが如何に生きるのか、見届けたいと思います。


『レイリ』第5巻(室井大資&岩明均 秋田書店少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)

レイリ 第5巻 (少年チャンピオン・コミックスエクストラ)

室井大資 岩明均 秋田書店 2018-11-08
売り上げランキング : 161
by ヨメレバ

関連記事
 室井大資&岩明均『レイリ』第1巻・第2巻 死にたがり少女と武田の未来と
 室井大資&岩明均『レイリ』第3巻 レイリの初陣、信勝の初陣
 室井大資『レイリ』第4巻 死にたがりの彼女の、犬死にが許されぬ戦い

|

« 須垣りつ『あやかし長屋の猫とごはん』 少年を広い世界に導くおかしな面々 | トップページ | 柳広司『吾輩はシャーロック・ホームズである』 ホームズになった男が見た世界 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/67371604

この記事へのトラックバック一覧です: 室井大資『レイリ』第5巻 修羅場を超え、彼女が知った意味:

« 須垣りつ『あやかし長屋の猫とごはん』 少年を広い世界に導くおかしな面々 | トップページ | 柳広司『吾輩はシャーロック・ホームズである』 ホームズになった男が見た世界 »