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2018.11.03

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第5章の4『蛇精』 第5章の5『聖塚と三童子』 第5章の6『侘助の男』


 北から来た盲目の美少女修法師・百夜の活躍を描く短編シリーズの第5章後半、第5章の4(第28話)から6(第30話)の紹介であります。第5章を貫く謎――昌平橋のたもとに侘助の裏地の着物を着て現れ、彼女を誘う謎の色男と、ついに百夜は対峙することになります。

『蛇精』
 ある晩、婚儀を間近に控えた荏原の大庄屋の娘を襲った怪異。夜中に畳が何かを擦る音で目覚めてみれば、彼女の周囲を這い回るのは蟒蛇――それも笑い声を上げ、髪を生やした物の怪だったのであります。
 依頼を受けた百夜は、「蛇精に気をつけな」という侘助の男の託宣を背に調伏に向かうのですが、娘から感じたのは嫉妬と人ならぬモノの気配。そして娘の母も、かつて同様に奇怪な目に遭っていたことがわかり……

 冒頭、寝ていた娘を蟒蛇が襲うシーンの怪談めいた描写(特に蟒蛇に髪が生えていることに気付くくだりが良い)が中々に恐ろしい本作。しかし真に恐ろしいのは、中盤で語られるある人物の情念の存在でしょう(尤も、そこにきちんと救いが用意されているのもいいのですが)。

 事件は百夜の景迹によって比較的あっさりと解決するのですが――ある意味真のクライマックスはその先。再び百夜の前に現れた侘助の男は、何と百夜を――という表紙の場面がインパクト絶大であります。
 百夜が失明した時も側にいたという侘助の男。百夜を共に行こうと誘い、従わないのであれば別の者を連れていくと語る男の正体は果たして……


『聖塚と三童子』
 陸奥で修行中の桔梗が百夜の危機を察知し、立ち上がる――という冒頭から、クライマックスの近さを感じさせる本作。
 それはさておき、百夜は日野のとある村の入り口にある聖塚――百年ほど前に上人が入定して即身成仏となった地――の麓に、三人の童子が現れるという怪異の調伏を依頼されることになります。

 尖った髪で、左右の童子は直立した真ん中の童子の方に上半身を傾けて現れるという三人。これだけなら別におかしなことはありませんが、真ん中の童子が西瓜でも丸呑みできるほどに口を大きく開き、中で舌を蠢かす――というのは、三人が目撃されるのが夕刻ということもあってなかなかに不気味ではあります。
 しかし有徳の上人が眠る地に、何故このような怪異が起こるのか、そして何故今起きるようになったのか――この辺りの謎解きが、本作の一番の面白さでしょう。

 物語的には小品という印象は否めませんが、クライマックスには思わぬ人物(?)の登場もあり、ちょっと民話めいた味わいもある楽しい一編であります。


『侘助の男』
 そして第5章のラストでは、ついにあの侘助の男を巡る事件が描かれることとなります。

 ある真冬の日、大伝馬町の呉服屋の庭で狂い咲きした侘助の木の傍らに倒れていた店の娘・桃代。一方、原因不明の衰弱状態に陥った百夜は、瓦版でその狂い咲きを知ると、左吉と桔梗に支えられて呉服屋を訪れ、変事の存在を知るのでした。

 そしてその前に現れる侘助の男。自分は百夜が遠い昔に産み落とした存在だと語るその正体は。そして何故今になって彼女の前に現れたのか。烏帽子に狩衣姿の男が夢に現れたと桃代から聞かされた百夜が、たどり着いた真実とは……

 冒頭にも述べたとおり、この第5章において一貫して謎として存在してきた侘助の男。男女間の情とは全く無縁にも見えてきた百夜が、彼の誘いを拒絶しながらも明らかに娘らしく心を動かすという、意外な(?)描写がこの章では繰り返し描かれてきました。
 本作はその解決編、いわば侘助の男との決戦とも言うべき内容なのですが――決して派手な戦いとはなるのではなく、しかし心の深い部分に刺さる展開となるのが、本作らしいところでしょう。

 その詳細はここでは伏せます。しかしこれまで断片的に語られてきた百夜の過去が改めて語られ、そしてその中で――という、いわば過去との対峙編でありつつも、そこに少女修法師が付喪神に挑むという、本作の基本構造を踏まえた物語が生み出されているのが、実に素晴らしいのであります。
 第5章は正直なところ比較的小粒なエピソードが多い印象でしたが、このクライマックスはそれを補って余りある名品と言ってもよいかと思います。


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