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2018.11.06

石川優吾『BABEL』第2巻 第一の犬士誕生の時、そして新たなる舞台へ


 原典を踏まえつつ、その華麗な画でもって新たな伝奇物語を描いてみせる新釈八犬伝、待望の第2巻であります。辛うじて恐るべき玉梓と闇の力を退けた信乃たち。しかしその犠牲は決して小さなものではなく、そしてすぐに魔の手は再び彼らを襲うことになります。窮地の信乃に救いの手はあるのか……?

 奇怪な魔の力を味方につけた山下定包に攻められ風前の灯火の里見家を救うべく、比叡山に神の犬・八房と丶大法師を頼った里見の姫・伏姫。
 里見に向かう彼女たちを山下の兵から助けた信乃と額蔵の二人は、一度は八房に討たれながらも里見義実に取り憑いた魔女・玉梓の闇の力を目の当たりにすることになります。

 その義実が伏姫に刃を振り下ろした時、彼女の身につけた数珠の不思議な力により、一度は退散した闇。しかし数珠の八つの玉はいずこかへと飛び去り、伏姫は生とも死ともつかぬ不思議な状態のまま、八房ともども眠りにつくのでした。

 ……と、我々の知る八犬伝とはある部分で重なり、ある部分で大きく異なる本作。その第1巻を受けたこの巻の前半では、再び信乃を襲う闇の猛威が描かれることになります。

 昏睡状態の伏姫たちをひとまず比叡山に迎えることとなった丶大一行。しかし額蔵は己の無力さに絶望して彼らのもとを離れ、そして信乃は、山下に取って代わった安西景連が村の人々を人質に取って自分を捜していると知り、単身村に取って返すのでした。
 しかし非道にも信乃の目の前で磔にされた人々を処刑する安西軍。怒りに燃える信乃は、ただ一人残された少女を守るため、獅子奮迅の活躍を見せるのですが――しかし多勢に無勢の上、その前に再びあの玉梓が立ち塞がることになります。

 自分の体を奪おうとする玉梓に対し、闇の力に奪われるくらいならばと一度は自刃を考えた信乃ですが、その時、思わぬ援軍が出現。しかし一度は形勢逆転したものの、闇の力が生み出した不死の軍勢を前に、今度こそ絶体絶命となったその時……

 と、早くも絶体絶命の窮地に陥った信乃。原典でも冒頭から辛い目に遭いまくる信乃ですが、本作ではそれとは全く異なるベクトルでボロボロにされていくことになります。しかし苦しい時に彼らを助けるものは――というわけで、いよいよここで待望の場面が描かれるのであります。

 その様は如何にも本作らしく、美しくも外連みに溢れたものですが――それは新たな八犬士の誕生に相応しいものといえるでしょう。そう、本作はここまでが序章、これからが本当の戦いの始まりと言ってよいのではないか、と感じます。


 そしてこの巻の後半では、仲間たちを求めて旅立つことになった信乃と丶大、そして信乃に救われた少女(その名は――ここで登場するのか! と感心)が、不思議な犬たちに導かれて関東管領・扇谷定正の佐倉城を訪れることになります。
 しかし佐倉城はスラムと迷宮と要塞を混淆したような奇怪な城、そしてそこでは城兵が人狩りを行い、犠牲者を闘技場に連行していたのであります。そして人間同士が闘技場で殺し合う姿を喜びながら見つめる奇怪な巨漢こそが定正、そしてその傍らにはまたもや死んだはずの玉梓の姿が……!

 と、ここに来て、別の作品になったかのようにいきなりリアリティレベルが下がる本作(特に定正。史実ではとうに亡くなっている人物ではありますが……)。この辺りは、正直に申し上げて非常に違和感がありますが――しかしここで注目すべきは、闘技場に現れた一人の男の存在でしょう。
 手にした鎌で無表情に対戦相手を斃していく寡黙な男――その名は現八、犬飼現八!

 玉梓の魔力によって早くも正体が露見して逃げる信乃は、この現八に追われることになるのですが――追われた末に信乃が向かう建物の名が芳流閣とくれば、もうニヤニヤが止まりません。


 果たして信乃と現八の戦いの行方は、そして二番目の仲間はどのような形で誕生するのか。上に述べたように、違和感を感じる部分もあるものの、それを吹き飛ばす物語に期待したいと思います。


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