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2018.11.29

DOUBLE-S『イサック』第5巻 和平の道、そして新たなる戦いの道へ


 欧州に渡った日本人銃士の活躍を描く本作も、もう第5巻――しかし欧州を揺るがす戦いはまだまだ続き、イサックの苦闘も終わることがありません。宿敵との激突も束の間、イサックはプリンツ・ハインリッヒとともに和解の道を探ることになるのですが、それは同時に新たな戦いの始まりでもあります。

 アルフォンソ王太子の死という意外な展開により、終結に向かうローゼンハイム市防衛戦。しかしプリンツが囚われの身となり、イサックは未だ癒えぬ右肩の傷の痛みを堪えて救出に向かうことになります。
 その前に立ち塞がるのはイサックの宿敵であり、彼が戦う理由であるロレンツォ。伊サックは捨て身の攻撃でロレンツォを追い詰めるのですが……

 と、クライマックスのような展開で始まったこの巻ですが、あっさりとロレンツォは身を引き、イサックはプリンツを奪還。しかし窮地はいまだ終わらず、スピノラ(二代目)率いる追っ手が、二人を追い詰めることとなります。
 ローゼンハイム市も目前の場所まで辿り着いた二人ですが、辛うじて戦いを終えた市側にはスピノラ軍と再び戦端を開く余裕などありません。自力で市にたどり着くしかない絶体絶命の窮地の中、飛び出してきたゼッタのために全力で引き金を引くイサック。しかし二人が三人になっても状況は変わらず――まさに危機また危機であります。

 が、ここからがまたシビれる展開。傷ついたイサックの代わりにゼッタが込めた銃を手に、イサックが狙うのはスピノラ。イサックの腕であればスピノラを確実に殺せるものの、そうすればスピノラの配下が襲いかかり、イサックたちは、そしてローゼンハイム市も皆殺しとなるのは必定であります。
 イサックが撃てばスピノラもイサックも全員死ぬ。スピノラが退けば誰も死ぬことなく戦いは終わる――ある意味メキシカン・スタンドオフ的ですが、たった一発の銃弾が、たった一人の決断が全員の運命を変えるというのは、これは実に本作らしいシチュエーションと言うべきでしょう。

 文字通り皆の命を賭けた勝負の結末は――これは言うまでもないかと思いますが、それでも緊迫感に満ち満ちた名場面であることは間違いありません。


 そして一時の平穏を得るイサックたちですが――しかし厳しいことを言ってしまえば、彼らの戦いは局地戦も局地戦に過ぎません。彼らの戦いはより大きな戦いのごく一部――後に三十年戦争と呼ばれるカトリックとプロテスタントの戦いは、まだ始まったばかりなのであります。
 その戦いの最前線に立たされているのはプリンツであり、プリンツの兄。その兄を支えるため、そして母からの頼みもあって、プリンツはカトリック側との和平交渉のため、バイエルン公国に向かうことになります。

 しかしそこは既に敵地。プリンツと、当然同行するイサック、そして商人への偽装のためについてきたハンスとゼッタの一行は、途中検問に引っかかって窮地に陥るのですが――そこに現れた謎めいた甲冑の騎士こそは、エリザベート・フォン・クラーエンシュタイン男爵。
 エリザベート? そう、彼女はプリンツの従姉妹である姫男爵。彼女の協力もあって、無事に和平のための最初の会談を行うプリンツですが、しかしこれはいわば担当者レベルの合意に過ぎません。この先、本当に責任者同士の合意に繋げていくためには、どれだけの難関が待ち受けていることでしょうか。

 その苦難を予感させるように、再びカトリック側についたロレンツォがプロテスタント側を苦しめているとの報が入り、そして病で余命幾ばくもなかったオーパが、ゼッタをイサックに託して逝くことに……

 恩と復讐に一意専心する迷いのなさこそがその強さの源である(と作中で語られるのですが、なるほどと感心)イサックにとって、ゼッタを引き受けたことは、あるいは重荷にはならないのかもしれませんが――しかしいかにも彼の行く手は前途多難と言うほかありません。

 彼の、ゼッタの、プリンツの運命がどこに向かうのか――正直なところ馴染みの薄い歴史の世界だけに、先がわからなくもあり、そしてそれが楽しみでもあります。


『イサック』第5巻(DOUBLE-S&真刈信二 講談社アフタヌーンKC)

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