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2018.11.27

永山涼太『八幡宮のかまいたち 江戸南町奉行・あやかし同心犯科帳』 しまらない二人が挑む「怪異」の意味


 弁慶の亡霊に鬼火、かまいたちに置いてけぼりと、江戸を騒がす「怪異」に挑む者たちを描く本作は、タイトルを見れば一見伝奇捕物帖のようですが――しかし主人公は悩めるおっさんと若者のバディ。そんなしまらない二人が、ままならぬ世の不条理に挑む、何ともユニークで味わい深い連作であります。

 「とりもちの栄次郎」の異名を持ち、若くして隠密廻りになりながらも、やりすぎて周囲から疎まれ、妻にも逃げられた北町奉行所同心・望月栄次郎。江戸を騒がす盗賊一味を追いつめたものの頭目を逃し、謹慎処分となった彼は、好奇心から永代橋のたもとに弁慶の亡霊が出るという噂を確かめに行くのですが――そこで一人の青年武士とぶつかることになります。

 その青年の名は筒井十兵衛――直心影流の名門・団野道場でも有数の使い手であり、名奉行・筒井伊賀守の三男である彼は、父から命を受け、釈然としないながらも亡霊の正体を探りに来ていたのであります。
 互いに胸に鬱屈を抱えた者同士、些細なことから争いとなった二人ですが、場数の違いから叩きのめされたのは十兵衛の方。弁慶の亡霊の正体は成り行きから解き明かされたものの、遺恨を残した二人は、深夜の回向院で立ち会いを約するのでした。

 そして始まった二人の対決。しかしその最中に、パチパチという音とともに不気味な炎が出現して……


 というわけで、本作の主役を務めるのは、公私ともどもドロップアウト寸前の中年と、自分の将来に希望を見いだせず空回りする青年という、なかなか身につまされる設定の二人。

 狙った相手から離れないことから「とりもち」と呼ばれていたものが、役目から外されて町会所見廻となった末に「餅搗き」と呼ばれるようになった栄次郎。弁慶の幽霊の探索を命じられたものの勝手がわからず、橋のたもとの茶店で餅ばかり食べていたために「餅食い」と呼ばれてしまった十兵衛。
 共に餅にまつわるしまらない渾名を付けられてしまった二人が、なりゆきから「永代橋の弁慶」「回向院の鬼火」「八幡宮のかまいたち」「深川の置いてけぼり」といった江戸を騒がす怪事件に立ち向かう姿が、本作では描かれることになります。

 はじめは斬り合いを始めるほど仲が悪かった二人が、同じ謎に挑み、同じものを見る中で、やがて互いの距離を縮め、無二の相棒となっていく――そんな定番をきっちり押さえた展開は、バディもののファンであれば必ずや琴線に触れるはず。
 特に、上に述べたように、二人がある意味世の正道から外れかけた人物だけに、彼らの絆と、そして彼らが事件の最中で出会う人々に向ける眼差しは、強く印象に残るのです。


 そしてそんな二人の存在は、本作で描かれる「怪異」の正体とも、強く関わっていくことになります。

 あまり詳細に触れるわけにはいきませんが、本作で描かれる「怪異」は、いずれも人間が、人間の心が――そしてそんな人々を生み出すこの世の在り方が生み出したもの。
 そうして生まれた「怪異」は、常の法で裁くことはできません。仮に裁くことができたとしても、それは真の解決にならず、新たな「怪異」を生み出すことになりかねないのですから。

 だとすればそれを鎮められるのは、この世を法で治める側の人間にありつつも、「怪異」に関わる人々と同じく、この世のままならなさの前にもがき苦しみ、それでいてこの世を諦めきることもできない者たちでしょう。
 そしてそれは、栄次郎と十兵衛の二人しかいないのであります。
(ただこの二人の――特に栄次郎の視線というか主義主張がえらく保守的に見えてしまうのは、少々、いやかなり気になるところではあります)


 誰が名付けたか、いつの間にか世間に広まった「物怪憑物改方」の名に振り回される二人。しかしこの世において「怪異」が如何なる意味を持つか、如何なる役割を持たせるべきか知った時、二人は胸を張ってその名を受け容れることになります。

 そう、物怪憑物改方 妖同心の活躍はまだ始まったばかり。二人がいかなる「怪異」と出会い、そこに人の世の何を見るのか――この先の物語も見てみたくなる作品であります。


『八幡宮のかまいたち 江戸南町奉行・あやかし同心犯科帳』(永山涼太 ポプラ文庫)

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