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2018.11.04

遠藤遼『平安あかしあやかし陰陽師 怪鳥放たれしは京の都』 二人の好人物が挑む怪異


 平安京を守る陰陽師――といえば、もちろん真っ先に名が挙がるのは安倍晴明。しかしそもそも陰陽道の本流は賀茂家であり、この時代、晴明と並ぶ達人として名が挙がるのが賀茂光栄であります。本作はその光栄が紫式部の叔父である藤原為頼を相棒に、都を騒がす怪異に挑む物語です。

 太宰府への赴任を終え、京に帰って早々に幼なじみである光栄のもとを訪れた為頼。実は為頼は、肝試しに訪れた廃屋敷で何かに取り憑かれたので陰陽師を紹介してほしいという貴族から仲立ちを頼まれていたのであります。
 その一件をあっさりと片付けた光栄ですが、それがきっかけで今度は時の権力者である藤原師輔が人面の怪鳥に襲われたという事件に関わることに。さらに宮中でもうち続く怪事に対し、光栄は弟子の晴明、師輔の娘である中宮安子、そして為頼の力を借りて挑むことになります。

 一連の怪事に共通する「もの」とは何か、そしてその背後に潜む存在とは……


 天才陰陽師が、お人好しで心優しい友人とともに怪事件に挑む――このシチュエーションは、もはや平安ものでは定番中の定番と呼んでも良いでしょう。本作もまた、その一つであるわけですが、目を惹くのは、主人公の光栄のキャラクターです。

 陰陽道の天才であり若くして陰陽寮のエースとして知られる存在、そして何より女性と見間違うほどの年齢不詳の美貌の持ち主――実に陰陽師ヒーロー的な光栄ですが、しかしその性格は至って「いいひと」。
 普段は近所の童たちに交じって遊びに汗をかき、甘いものに目がないという人物で、陰陽師という言葉から感じる孤高の天才、あるいは近寄りがたい奇人というイメージからはかけ離れたキャラクターなのです。
(といっても、自分の納得いかないことであれば、師輔を前に一歩も引かない硬骨漢でもあります)

 そしてそんな光栄の幼なじみであり、親友である為頼もまた実に素直な好人物。その歌人らしい豊かな感受性は、時に亡魂相手であっても悲しみや慈しみの念を隠さない――と、こちらは定番の気味がありますが、単なる驚き役で終わらず、彼ならではの特技が役に立つ場面があるのは実に面白いところであります。

 また、光栄が必ずしも作中の事件を超自然的な解釈で片付けない点も目を引くところですが、陰陽師が魔術師である以前に技術者であることを考えればこれも納得で、この辺りのある種の生真面目さは、本作の特色と言って良いかもしれません。


 しかしその生真面目さが少々物足りないと感じてしまうところで、意外性という点では類作に一歩譲る印象があります。
 上で述べたように為頼の特技が事件の真相解明に役立つという部分は面白いのですが、その真相というのがある意味直球であったため、意外性に薄いのは残念なところであります。

 光栄と為頼、さらに晴明や安子のキャラクターもそれなりに面白くはあり、また登場する女性たちに向ける視線の優しさ、温かさも印象に残るところではあるのですが――もう少し尖った部分があっても良かったのではないでしょうか。
 ……というのは派手好きの読者の勝手な感想かもしれませんが、少々もったいなさを感じたというのが正直なところであります。


『平安あかしあやかし陰陽師 怪鳥放たれしは京の都』(遠藤遼 富士見L文庫)

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