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2018.11.28

鳴神響一『鬼船の城塞 南海の泥棒島』 帰ってきた海洋冒険時代小説!


 鎖国下の江戸時代、大海で暴れ回った海賊衆・阿蘭党の活躍を描いた『鬼船の城塞』が帰ってきました。エスパニア海軍との激闘の傷跡も癒えぬ阿蘭党の前に一隻の無人の南蛮船が現れたことをきっかけに、南海を舞台に新たな冒険の幕が開くことになります。

 「鬼船」と呼ばれた赤い巨船を操り、船乗りたちから恐れられた海賊・阿蘭党。彼らは館島(現在の父島)を根城に、寛保の世までその命脈を保ってきた戦国時代の後北条水軍の残党であります。
 その阿蘭党に、任の最中に襲撃を受け、部下を皆殺しにされて捕らえられたのが、元・鉄砲玉薬奉行・鏑木信之介。その武芸の腕を認められて賓客となった彼は、館島で暮らすうちに、阿蘭党の人々と少しずつ絆を育んでいくことになります。

 やがて島を狙って襲来したエスパニア海軍に対し、信之介は阿蘭党と協力して立ち向かうことに――というのが、前作に当たる『鬼船の城塞』の物語であります。

 言うまでもなく鎖国によって日本人が海外に渡航することがなかった江戸時代。それ故に江戸時代を舞台とした海洋ものはほとんどなかった中、前作は非常にユニークかつ新鮮な作品として印象に残っています。
 そしてその待望の続編が本作なのですが――冒頭で語られるのは、エスパニア海軍との決戦の影響の大きさであります。

 エスパニア海軍撃退の代償として、彼らの象徴たる鬼船を失った阿蘭党。しかし単に海賊稼業だけでなく、海の向こうから物資を手に入れることによって命脈を保ってきた彼らにとって、それはあまりに大きな打撃を与もたらすことになりました。
 海賊に出ることはおろか、食料や生活必需品、医薬品や武具に至るまで、本土からの物資を手に入れる手段を失った阿蘭党。しかしもはや小早船しか残っていない今、彼らは館島に閉じ込められたも同然なのであります。

 そんな阿蘭党始まって以来の苦境の中、島に漂着した無人の南蛮船。小早船に毛が生えたようなこの船であっても今の彼らにとっては天の助け――限りなく小さい可能性に賭けて、本土への航海に乗り出すことになったのは、阿蘭党の頭領である兵庫、南蛮仕込みの航海術を持つ儀右衛門、そして信之介。
 さらに無理やり乗り込んできた兵庫の妹・伊世や豪傑武士・荘十郎を加えて出向した一行を、激しい嵐が襲います。

 帆と舵を失い、運を天に任せて漂流する一行がたどり着いたのは南洋の緑溢れる美しい島。そこは南蛮人からラドロネス(泥棒)島と呼ばれる地だったのですが……


 というわけで、今回の物語の舞台となるのはサブタイトル通り南海の泥棒島。阿蘭党がいわば海賊島の住人であることを思えば、何やら似つかわしい名前に思えますが――しかしこの名前には事情があります。
 作中では明確にはされていませんが、本作から遡ること約200年前、マゼランがこの島々を「発見」した際に、船の積荷を島の原住民に奪われたことから付けられたのが、この名前。しかしこれはマゼランたちの方が先に食料を強奪したとも言われており、その後の収奪の歴史を鑑みれば、さもありなんという印象があります。

 そう、その後この島々はエスパニアの植民地として収奪され、元々の住民たちは強制的にキリスト教に改宗させられた上に、外部から持ち込まれた疫病によってその数を減らしていくこととなりました。
 信之介たちが漂着したのは、まさしくこのような時代。そしてその島で密かに隠れ住む誇り高き現地の人々と交流した信之介たちは、島に来襲するエスパニア船に対し、戦いを挑むことになるのであります。

 が、その戦力差は前作で繰り広げられた戦いよりも更に上。そもそも信之介たちにはもはや軍船はなく、そして戦えるメンバーもわずか数人という状況なのですが――その絶望的な戦力差をどうするか、それが本作のクライマックスの見所となります。


 終盤にはそんな盛り上がりをみせる本作ですが、全体と通してみたスケール感では前作にはかなり譲るところがあり、温度があまり高くない文体も相まって、かなりおとなしい印象を受けるというのが正直なところ。そんなこともあって、前作の続編というより、後日譚という印象があります。

 その意味では、まだまだもっと先に行くことができるシリーズなのではないかと思いますが――しかし本作を以て、シリーズが再起動したのは、やはり喜ばしいことです。
 前作においては阿蘭党と共に戦ったものの、いまだ自分の在り方に悩む信之介が、ついに居場所を見つけたこともあり――これからの信之介と阿蘭党の活躍に期待したいところであります。


『鬼船の城塞 南海の泥棒島』(鳴神響一 角川春樹事務所時代小説文庫)

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