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2018.11.05

平谷美樹『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 月下狐の舞』 江戸の出版界を駆ける個性豊かな彼女たち


 江戸の本屋・草紙屋薬楽堂に集う風変わりな面々が、本や出版にまつわる奇妙な事件に挑むシリーズも本作で第4弾。推当(推理)に冴えを見せる女戯作者・鉢野金魚と残念イケメンの貧乏戯作者・本能寺無念を中心とする面々に加え、今回は新顔も登場していよいよ賑やかな物語が展開されます。

 持ち前の頭の冴えと好奇心、気っぷのよさで様々な事件に首を突っ込んでは解決し、それを題材に戯作を書いてきた金魚。
 そんな彼女が顔を出すのは薬楽堂――大旦那から奉公人に至るまで曲者揃いの上に、金魚とはつかず離れずの間柄の無念、女流文学者の只野真葛、薬楽堂の旦那の娘の天才少女・おけいなど、一癖も二癖もある面々が集う草紙屋であります。

 さて、その薬楽堂に居候する無念を訪ねてきた金魚。自分のアイディアがある戯作者とネタかぶりした憤懣を聞いてもらおうとして来た金魚ですが、無念は無念で自分の戯作で忙しくロクに相手もしてくれない状況におかんむりであります。
 と、そんな中に現れたのが、当の戯作者である千両萬両こと紙くず拾いの千吉。一度死にかけた時に、あの世で故人の戯作者・小野萬了に出会って書いたという作品がヒット中の彼ですが、萬了の孫という武士に脅されて弱っているというのです。

 自分が使おうと思っていたネタを使った奴を助ける必要はねェとけんもほろろな金魚ですが、しかし千吉が何かを隠していることを察した彼女は、騒動の裏にある事情を探ることに――という「千両萬両 冥途の道行」に始まる本作、残る3話も個性的なエピソード揃いであります。

 夜な夜な店に現れる河童に友人が脅かされているという事件を戯作に書こうとするおけいとともに、金魚・真葛が真実を探る 「戯作修業 加賀屋河童騒動」
 写本の書き手との身分違いの恋に悩む呉服屋の娘が狐憑きになったという事件を八方丸く収めるため、金魚と新たな仲間が奔走する「月下狐之舞 つゆの出立」
 薬楽堂の新企画・素人戯作試合の最終選考に残った二人の正体を追う金魚と無念が、思わぬ「殺人事件」に巻き込まれる 「春吉殺し 薬楽堂天手古舞」

 日常の(?)謎あり、怪談の真相暴きあり、人助けあり――バラエティに富んだ各話の趣向が魅力であるのはもちろんですが、それぞれが皆、戯作や江戸の出版業界に絡んだ内容となっているのが実に面白い。
 特にラストのエピソードは、江戸の新人賞ともいうべき素人戯作試合の応募者の正体探しというシチュエーション自体が非常に楽しく、推理に関してはほとんど無敵だった金魚が初めて外した!? という興味も相まって、ファンには様々な意味で必見の作品です。


 そしてまた、本作の魅力は物語の内容自体には留まりません。上に述べたように、薬楽堂に集う面々の個性も大きな魅力なのですが――特に本作においては、新顔をはじめとして、女性陣のキャラクターが際立って感じられます。

 その新顔とは、葛飾応為ことお栄――あの葛飾北斎の娘であり、自身も優れた絵師であった女性であります。もちろんお栄は実在の人物ですが、本作では金魚の戯作に興味を持って薬楽堂を訪れ、たちまち金魚と意気投合。その勢いで狐憑き事件の解決にともに奔走することになります。

 このお栄は、小説のみならず映像作品などでも最近様々に題材となっていますが、本作では金魚以上にあけっぴろげでさっぱりした性格の持ち主――それでいて優れた芸術的感性の持ち主として描かれているのが面白い。
 金魚とお栄の感性がシンクロして、月下に舞う妖しい狐の姿を幻視する場面は、本作随一の名場面と呼んで良いかと思います。

 そして面白いのは、そんな金魚とお栄、さらに真葛やおけいといった面々の、その個性を説明するのに、「不思議」に対する態度で表現するのも、またユニークなところでしょう。
 頭っから信じない金魚、信じている真葛、自分で見たことがないものは判断しないおけい、あった方が世の中面白いというお栄――キャラクターの描き分けという点において、このような視点を用意してみせるのもまた、本作らしい巧みさと感じます。


 と、またもや女性キャラクターが増えたことで「少しは活躍させてもらえねぇと、影が薄くなっちまうじゃねぇか」とボヤく無念ですが――その彼と金魚の距離が微妙に、いやかなり近づきつつあるのもまたニヤニヤとさせられる本作。
 この先の作品世界の広がり同様、二人の行き先もまた大いに気になるシリーズなのであります。


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