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2018.12.06

肋家竹一『ねじけもの』第1-2巻 人間と妖怪、激情と平静の間で


 戦国時代の九州・日向を舞台に、復讐に燃えて放浪する山賊・カガシと長きに渡り山に住まう妖の女・縣――奇妙な二人の姿を描く漫画であります。人間と妖怪、それぞれに考え方も生き様も違う二人が、力が全ての戦国の世で見るものは……

 強盗、追い剥ぎ、人殺し――生きるために平然と悪事に手を染めながら放浪を続ける山賊・カガシ。ある時立ち寄った村で狐の妖怪退治を依頼された彼は、好奇心からそれを引き受けて山に入った際に、凶暴な山犬に襲われることになります。
 谷に落ちた彼の前に現れたのは、人間めいた外見ながら、獣の耳を生やした巨躯の女。山犬を友と呼び、不思議な力でカガシの傷を治した彼女は、カガシの言動に興味を持ち、彼に付いて山を出るのでした。

 実は、かつて彼の仲間を皆殺しにした傭兵集団・蜥蜴衆を追って放浪を続けていたカガシ。様々な事件を経て蜥蜴衆が佐土原城の伊東義祐に仕えていることを知ったカガシは都於郡に向かったものの、そこで住民の蜂起と島津家の侵攻に巻き込まれることになって……


 復讐を目的として放浪する男、異なる時を生きる人間と妖怪のバディ――どちらもエンターテイメントではしばしばお目にかかる題材ではありますが、その二つを組み合わせた本作は、かなりユニークな手触りの物語。そしてそのユニークさを生み出す最大の原因となっているのは、カガシのキャラクターであることは間違いないでしょう。

 目的のためには手段を――特に暴力を選ばないというのは、これは決して珍しい特徴付けではないかもしれませんが、本作の描写は、そんなカガシの在り方を、決して美化することなく、むしろ露悪的に描きます。
 自分より弱い者から奪うことも、敵となった者を殺すことも躊躇わない。いや、己より強い者に勝つためには、人質など卑怯な手をも平然と使ってみせる――その姿は、ピカレスクというような格好良いものではなく、もっと泥臭く、生臭いものを感じさせるのです。

 人間と妖怪がコンビを組む場合、妖怪のキャラクターの方が、命の有り難みを理解せず、平然と暴力を振るい、それに対するものとして人間のキャラクターが存在することが大半のように思えます。
 しかし本作においては、縣の方がよほど穏やかであり――尤も、人間の命に対しては極めて無頓着なのですが――作中で本人が言っているように、カガシの方が妖怪に近い、という印象すらあります。

 その意味では、本作においては、人間と妖怪をはっきりと分けるものはないようにも感じられます。もちろん両者は、姿も、力も、寿命も大きく異なるものではありますが――特に弱肉強食の戦国の世において「生きる」ということにおいて、両者の間に大きな違いはないことが、作中では描かれていくのであります。

 いや、カガシと縣の間に違いがあるとすれば、それは種族ではなく、強い感情――己の、他者の生き様に影響を与えるほどの――有無にあると言えます。

 己を弱者と断じ、それ故に恨みを生きる原動力とするカガシ(そして彼の場合、それが他者にも同様と信じ込んでいるのがまた凄まじい)。大妖と呼べるだけの力を持つが故に、怒りをはじめとする激情を失い、カガシに生きるまで逼塞していた縣。
 果たしてそのどちらが「人間的」なのか――本作で描かれる二人の関係性は、一筋縄でいくものではなく、それだけに何ともユニークなものとして感じられるのです。


 しかしそんな二人もまた、人間の歴史の激動の中に巻き込まれていくこととなります。仇である蜥蜴衆が伊東家に仕えることを知り、戦いを挑もうとするカガシ。しかし当の伊東家は圧政により民の信望を失い、さらに九州統一を目指す島津家の圧倒的な力の前に、風前の灯火の運命にあります。
 その嵐の前に、一人の「人間」がいかなる力を持つものか――仮に一人の「妖怪」が手を貸したところで、それは微々たるものというしかないでしょう。

 その中でカガシは己の激情を貫くことができるのか。縣はそれを前に平静さを保っていられるのか。
 時は1577年、いわゆる伊東崩れが目前に迫る中、物語はいかなるクライマックスを迎えるのか――近いうちに刊行されるであろう第3巻・最終巻に何が描かれるのかを見届けたいと思います。


『ねじけもの』第1-2巻(肋家竹一 新潮社BUNCH COMICS)


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