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2018.12.18

百地元『黒狼』第1巻 原田左之助、満州に立つ――40年後の!?


 新選組隊士の中でも、その豪快なキャラクターで特に人気の高い原田左之助。彼には幕末に生き残り、満州に渡って馬賊となったという楽しい伝説がありますが――本作は伝説通り、左之助が満州で大暴れする姿が描かれる物語であります。ただし、戊辰戦争から40年後の満州で!

 彰義隊に加わり、上野寛永寺で新政府軍と戦った末に壮絶な最期を遂げた原田左之助。しかし彼が目を覚ましてみれば、そこは遠く異国の地――中国大陸は満州でありました。
 状況が掴めぬまま、この地で覇権を争う二つの馬賊集団――金寿山と白虎王の争いに巻き込まれた左之助は、その最中に白虎王に目を付けられることになります。

 いや、白虎王が注目したのは、左之助ではなく、彼が首に下げた石。左之助の祖父の形見のその石こそは、持つ者に王の力を与える伝説の宝玉「龍の瞳」の欠片だというのではありませんか。
 自身もその欠片の一つを持つという白虎王に自分の欠片を奪われそうになり、逆に相手の欠片を飲み込んでしまった左之助。それがきっかけで、彼は白虎王と行動を共にすることになるのでした。

 自分が目覚めたこの時代が、上野戦争から実に40年後と知り、さすがに驚く左之助。しかし満州の覇権を争う男たちの戦いの真っ只中に放り込まれた左之助は、持って生まれた闘争心に火をつけ、馬賊となることを決意するのでした。
 白虎王――後に満州王と呼ばれる男・張作霖の下で……


 というわけで、冒頭で触れたように、左之助が馬賊となって活躍する(正確にはこの巻のラストでようやく馬賊に仲間入りするのですが)本作。
 左之助が馬賊に、と聞いた時には、普通に(?)上野戦争で死ななかった左之助が海を越えるものと思いこんでいたのですが――豈図らんや、一度死んだと思ったら満州にいました、という転生もの(というよりタイムスリップもの)チックな展開だったとは!

 というわけで冒頭から驚かされる本作ですが、さらに驚かされるのは、彼の前に現れた馬賊の頭目――一見とても馬賊に見えぬ小柄な美形ながら、その実、極めて凶暴なその青年の正体が、張作霖であることでしょう。

 爆殺という、たぶん日本史の教科書に出てくる人物の中でも屈指のアグレッシブな最期を遂げたことで多くの人の記憶に残る張作霖ですが、本作で描かれるようにその前身は馬賊。
 貧しい少年時代を過ごしながらも馬賊として頭角を現し、日清・日露戦争後の東三省(中国東北部)で、日本軍や地方軍閥の間を巧みに立ち回って一大軍閥を築いた彼は、ある意味、混沌としたこの時代を象徴するに相応しい人物と言えるかもしれません。

 なるほど、いくら左之助が有名人であったとしても、いきなり彼自身に馴染みのない異国に渡るのも、我々読者にあまり馴染みのない馬賊になるのも、ちょっとすぐには受け入れにくい話。
 そこで彼を、我々を新たな世界に導くナビゲーターとして――そしてもちろん、その世界で大暴れするもう一人の主役として、張作霖を設定してみせたのは、実にユニークな目配りと言うべきでしょう。

 ……もちろん、それでいきなり40年飛ぶのはどうかとも思いますが、しかしそれは「龍の瞳」とともに、本作の物語の根幹となる一つの要素なのではないかと思います(実は単なる設定のための設定でも、それはまあそれで)。
 本作の舞台設定が、上野戦争からジャスト40年後だとすれば、1908年――その年に西太后が亡くなり、清朝最後の皇帝である溥儀が皇帝となったことを考えれば、その激動の中で、左之助と張作霖がどのように暴れ回ることになるのか、大いに気になるではありませんか。

 何よりも本作の左之助は、荒々しくも凛々しく、そして何よりもバイタリティに溢れた快男児。そんな彼が、「また」死に損なった後にたどり着いた新天地で何を見るのか、見せてくれるのか――実に楽しみなのであります。


 そしてもう一つ、左之助が首に下げる形見が、彼の祖父のものだけでなく、彼がかつて手に掛けた(と本作では描かれる)あの男のものでもある、というのが、新選組ファンとしては何とも気になるところなのですが――さて。


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