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2018.12.28

寺沢大介『ミスター味っ子 幕末編』第3巻 嵐の時代に生きる料理人の心意気


 ミスター味っ子こと味吉陽一(と堺一馬)が幕末にタイムスリップ、勝海舟を料理で助けて歴史を動かす――と驚天動地の設定の本作も第3巻。時代は1864年まで進み、いよいよ大きく歴史が動き出しました。この巻のメインとなるのは長州と薩摩の料理合戦、その果てに待つものは……

 何故か勝海舟が腹を減らすたびに幕末にタイムスリップし、ついでに(?)料理で歴史を揺るがす事件を解決する羽目になってしまった陽一。その後、一馬までも同様にタイムスリップするようになり、何だかすっかり慣れてしまった感のある陽一たちですが――しかしそんな間もどんどん事態は深刻の度合いを増していくことになります。

 そんな中、激しく対立する長州と薩摩を何とか和解させようとする陽一。一度は和解したように見えた両者ですが、どちらが主導権を持つかで再び対立したのを、海舟は料理勝負で決着をつけようと提案するのでした。
 それを受けた両者はそれぞれ代表選手を選びだすのですが――長州が選んだのは、奇兵隊所属の農民出身の天才少年料理人・タカ、そして薩摩側は藩の台所頭で四条流皆伝の少女・徳。

 かくて浅草寺境内で、江戸の町民たちを判定役に、料理勝負が始まることに……


 というわけで、今回陽一と一馬を差し置いて料理勝負を繰り広げるのは、この幕末の天才料理人二人。もちろんどちらも只者ではなく、そして繰り出される料理も尋常なものではありません。
 特に帝の口に入れる料理を作る四条流を操る徳は、その流派的に雅やかな料理を作るかと思いきや――まさかのとんでもないド派手な料理が炸裂。一馬がメタに言及するとおり、「これぞ味っ子ワールドって感じ」の盛り上りを見せることになります。

 が、しかし本作はそれだけでは終わりません。思わぬ(?)乱入者もあって料理勝負が波乱のうちに終わった後、成立したのはいわゆる薩長同盟。そして倒幕の動きが激化する中、幕府の第二次長州征伐が始まることになります。
 この第二次長州征伐は幕府側の戦意が乏しく、幕府の衰亡を決定づけたことで知られていますが――しかしその結果に至るまでに、日本人同士の戦闘が行われたのは事実。そしてその戦闘の中、初陣を経験したタカが見たものは……

 そう、そこにあるのは、食の喜びとは対極にある、無惨な死の姿。それを目の当たりにした彼は、そしてそこに現れた徳は、長州人薩摩人としてではなく、料理人として一つの道を選ぶことになるのであります。
 そこにあるのは、これまで陽一たちを通じて断片的に描かれていたもの――食を楽しむことの大前提というべき平和の尊さであり、料理を通じて自分たちなりにその道を目指そうとする料理人の心意気なのであります。

 はっきり言ってしまえば、陽一や一馬は部外者。このような想いも、所詮は平和な時代からやってきた人間の勝手な感慨と言えるかもしれません。
 それをこの巻では、タカと徳の姿を――実際にこの時代を生きた料理人の姿、それも現実にぶつかりながらも少年少女ならではの理想を諦めない姿を通じて、より鮮明な形で描き出したと言えるでしょう。

 もっとも、このようにタカと徳がほとんどこの巻の実質的な主人公であったこともあり、陽一の活躍が少なめ(終盤、ある有名人相手に一馬とタッグを組んで一泡吹かせる展開は痛快でしたが)だったのは少々残念ではあります。
 しかしこの巻で描かれたものは、この先に描かれるであろうクライマックス――幕府にとっても、海舟にとっても、江戸にとっても大きな意味を持つあの歴史的出来事に向かって物語が突き進んでいく中、大きな意味を持つだろうと、そう感じるのであります。


 などと思っていたら、ラストにはあの超重要人物が、また本作らしい破天荒なイメージで登場。果たしてこのお方が、この先の物語でどのような役割を果たすのか――まだまだ一波乱も二波乱もありそうです。


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