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2018.12.24

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第9章の1『千駄木の辻刺し』 第9章の2『鋼の呪縛』 第9章の3『重陽の童』


 北から来た盲目の美少女修法師と、付喪神をはじめとする怪異の対決を描く連作シリーズもこれで第9章。今回紹介する前半のエピソードでは、ついにあのキャラが登場することに……

『千駄木の辻刺し』
 千駄木の百姓地で相次ぐ辻斬り――いや辻刺し事件。腕利きの八丁堀同心までもが犠牲となり、怪異を疑う奉行所の依頼で千駄木に向かった百夜と左吉、そして怪談噺専門の読売・文七は、打ち捨てられた稲荷の存在に気付くことになります。
 そこで怪異の正体を見抜き、迎え撃つ百夜。しかし相手の凄まじい攻撃に、あわやというところまで追いつめられて……

 犠牲者を鋭利な刃で突き刺さす姿なき辻刺しとの対決を描く今回。得物を手にすれば作中では屈指の遣い手である百夜をも苦しめる敵の正体はなんであるか――激しい戦いを描きつつも、ミステリ味を用意しているのが、らしいところです。
 そんな物語の中で印象的なのは、今回初登場の文七のキャラクター。怪談、それも自分の足で稼いだ実話専門の読売という、ユニークなキャラですが、左吉を完全に差し置いて、百夜とともに怪異の正体を推理してしまうのが、ちょっと楽しいところであります。
(しかしこの文七、てっきりこの章のレギュラーになるのかと思いきや、これきりなのはちょっと勿体ない……)


『鋼の呪縛』
 看板戯作者である鉢野金魚の手が突然動かなくなったのは呪詛のためだと、薬楽堂に怒鳴り込んできた弁財屋。相手にしない長兵衛ですが、無念は金魚が何かに祟られているのではないか、いやもしかしたら密かに想いを寄せる自分の生霊の仕業では――と、百夜に助けを求めるのでした。金魚のもとに向かった百夜は、その心眼で思わぬ怪異の正体を見抜くのですが……

 というわけで、やはり登場しました鉢野金魚。言うまでもなく『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末』の主人公の彼女ですが、本作では薬楽堂ではなく弁財屋付きの戯作者、そして何よりも女性であることを隠しているという点で、おそらくはあちらの彼女とはパラレルな存在(おそらくプロトタイプ)。しかしそれでも夢の競演であることは間違いありません。
 本作ではその過去などは描かれませんが、やはりその美貌と読みの鋭さは相変わらず(?)の金魚。『薬楽堂』の方では怪異の存在を全く信じないキャラクターでしたが、今回は自分がそのターゲットとなっていることもあってか、百夜にも特に反発することなく受け入れているのが、何となく新鮮です。

 しかし何よりも気になってしまうのは、無念との関係。『薬楽堂』ではお互い意識してはいるものの、あまり表には出さない想いが、こちらではかなり表に出ているのにはニヤニヤさせられます。もっとも、無念の残念っぷりが思い切り足かせになっているわけですが……

 と、金魚のことばかり書いてしまいましたが、今回の怪異の正体は、物語のシチュエーションを踏まえてかなりユニークな存在。その正体を知った後の無念たちのリアクションも面白く、戯作という特異な世界を舞台にしエピソードならではの物語であることは間違いありません。


『重陽の童』
 重陽の節句も近いある晩、百夜の後ろ盾である倉田屋徳兵衛の枕元に現れた童姿の怪異。その後、徳兵衛の目の調子が悪くなった――と、左吉から聞いた内容からすぐにその正体に気付いた百夜は、たまには左吉自身に怪異を解決させようと、彼に調査を任せるのですが……

 探偵もののシリーズではまま見かける、助手が探偵役となるパターンである今回。というより百夜が見守っているので、はじめてのおつかい的な印象もあり、いわば百夜の親心なのですが――しかしここにもう一つの親心が絡んでくるのが本作のみどころです。

 以前のエピソードで語られたように、実は左吉の実の親である徳兵衛。外で作った子であるために名乗りを上げられず、店を継がせることは叶わないものの、それでも手元に置きたい――という親心を全く知らない左吉は、いつもの通りのお調子者ぶりを発揮しつつ、頼りない推理を巡らせるのですが……
 しかし右往左往した挙げ句にたどり着いた真実から、徳兵衛にとって色々な意味での贈り物が生まれる結末が実にいい。人情話の要素も少なくない本シリーズですが、それを変化球で、だからこそ印象的な形で描いてみせた、爽やかな後味の一編です。


『百夜・百鬼夜行帖』(平谷美樹 小学館) 『千駄木の辻刺し』 Amazon /『鋼の呪縛』 Amazon /『重陽の童』 Amazon
夢幻∞シリーズ 百夜・百鬼夜行帖49 千駄木の辻刺し 百夜・百鬼夜行帖シリーズ (九十九神曼荼羅シリーズ)夢幻∞シリーズ 百夜・百鬼夜行帖50 鋼の呪縛 百夜・百鬼夜行帖シリーズ (九十九神曼荼羅シリーズ)夢幻∞シリーズ 百夜・百鬼夜行帖51 重陽の童(ちょうようのわらべ) 百夜・百鬼夜行帖シリーズ (九十九神曼荼羅シリーズ)


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