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2018.12.02

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』 当時ならではの、そして現在だからこその悪の姿

 邪悪な魔法使いグリンデルバルドが護送の途中に脱走、パリに潜伏した。一方、恩師ダンブルドアの依頼もあり、仲違いしたそれぞれの恋人を追いかけて、人間の友人・ジェイコブと共にパリに向かうニュート。そこで彼らは再びグリンデルバルドとクリーデンスにまつわる事件に巻き込まれることに……

 ハリー・ポッターシリーズと同一世界の過去の物語であり、その前史とも言うべき『ファンタスティック・ビースト』シリーズの第二弾である本作。
 前作は1926年のアメリカを舞台に、逃げた魔法生物を追うニュートの奮闘と、強大な魔力を持つ青年・クリーデンスの謎が描かれた末、事件の黒幕であったグリンデルバルドの捕縛を持って終わりましたが、本作はその翌年を舞台に、次なる物語が描かれることとなります。

 その物語の中心となるのは、もちろん第1作で活躍した面々顔ぶれ――魔法生物の研究に並々ならぬ熱意と愛情を燃やすもののコミュ障気味のニュート、魔法とは無縁で気のいい中年男性・ジェイコブ、生真面目で活動的な魔法省の役人のティナ、そして彼女の妹で相手の心を読む魔力を持つクイニーの四人。
 そんな彼らの(特に物語前半での)姿は、実に「らしく」楽しく、久々にお馴染みの面々に再会できたという気持ちになれます。

 そしてお馴染みといえば、本シリーズには初登場ながら、ファンの皆が待ち望んでいた若き日のダンブルドアがついに登場。
 初登場シーンの表情一つで、「これはあのダンブルドアだ!」と思わされるジュード・ロウの好演は、登場する場面は決して多くないものの、一筋縄ではないかないこの人物を見事に描き出していたといえるでしょう。

 そして予備知識なしに見れば誰もが仰天したであろう「彼女」が実に印象的な姿で登場し、さらに今まで名前だけが語られていたあの人物の意外な活躍(?)と、ファンにとっては実に嬉しいキャラクターたちが登場。
 何よりも、(過去の時代の姿ではあるのですが)「懐かしの」と形容したくなるようなホグワーツ魔法学校の姿には、誰もが胸躍らせることでしょう。


 このように、心憎いまでのファンに対する目配せを見せる本作ですが――しかしそこで描かれるのは、前作よりも遙かに重く、厳しい物語であります。

 前作ではほとんど顔見せ同然の登場で捕らえられてしまったグリンデルバルド。本作では(予想通り)冒頭であっさりと逃走、故あって――その「故」を、ファンにはお馴染みのあのアイテムを用いて、直接的ではなく、しかしこれ以上ないほど鮮明に描く演出に脱帽――ダンブルドアが彼と戦いを避ける中、彼の影響力が水面下で、しかし着実に広がっていく姿が、克明に描かれることになります。

 そしてその末に――今回もまた様々な姿で登場する魔法生物たち以上に――強烈な印象を残すのは、本作のクライマックスで描かれるグリンデルバルドの姿であります。

 まだ公開されたばかりの作品故に、詳細は申し上げません。しかしここで描かれるグリンデルバルドの姿は、後の世を騒がせることとなるヴォルデモートとは全く異なる「悪」の姿を体現するものである――と言うことは許されるでしょう。
 そしてそれはまた、物語の舞台となる1920年代――先の大戦が終わり、平和な日々への希望を抱いた人々の間に、新たな不安が芽生えつつあった時代――だからこそ生まれたものであると同時に、極めて現代的なものでもあるのです。

 この世に悪の種を蒔くべく、自らの信奉者を煽り立てるグリンデルバルド。しかしその言葉は、表向きは決して悪を為そうというものではありません。そこにあるのは、この世にある脅威や恐怖の存在と、それに対する備えの訴え――そのことのみ。
 しかしその言葉にどれだけの毒があるのか、それがどれだけ危険なものであるか、我々は知っています。そう、ここで描かれる悪は、いま我々が目の前で対峙しているものにほかならないのですから。


 一本の映画としてみた場合、悪の存在感が強すぎるために、歪な印象があるのは否めません(それはあるいは、五部作の二作目だからこそ描けるものであるかもしれませんが)
 しかし個人的には、この時代が舞台だからこそ描ける、そしていまこの時代だからこそ描かれなければならない悪の存在を見事に提示してくれた本作に、大いに満足しています。

 そしてこの先に望むのは、この悪に我々はどう対峙すべきなのか――その答えであります。本作の結末でわずかにその可能性が垣間見えたようにも思えるそれを、この先どのように描くのか――今後の物語が今から楽しみでなりません。


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