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2018.12.17

渡辺仙州『三国志博奕伝』 三国志+死のギャンブル=!?


 児童書の中国もので活躍しながらも、マニアックなまでに丹念な原典への目配り等で、個人的に以前から注目していた渡辺仙州。その作者のおそらくは初の一般向け作品は、極め付きにユニークな作品――何しろ『三国志』を題材に、大の博奕嫌いの呉の文官が、死のギャンブルに挑むというのですから!

 既に劉備も孔明も、曹操も亡き後の三国時代の呉で皇太子の孫和に仕える文官の韋昭を目下悩ませているのは、巷での博奕の流行。自身でも『博奕論』なる博奕の批判書を著すくらいの博奕嫌いの韋昭ですが、呉の国民性によるものか、一向に博奕の流行は収まらないのであります。

 そんなある日、孫和の友人で無類の博奕好きの青年・蔡穎を諫めるため、街の博奕場・福福楼に足を踏み入れた韋昭。そこで彼は、借金のカタに売られた少女を助けるため、楼の老板(主人)・徐の言葉を受けてゲーム勝負をすることになるのですが――それが災難の始まりでした。
 実は全ては韋昭を勝負の場に引っ張り込むための策略。韋昭が持つという博奕の力・奕力(イーリー)を狙う徐は、呪術で奇怪な博奕場を作ると、韋昭の対戦相手として、ある英雄を呪術で復活させるのでした。その名は――呂布!

 かくて伝説の英雄を向こうに回した韋昭は、蔡穎、そして少女――実は徐によって蘇った董卓の孫娘・董白とともに、命懸けのゲーム勝負をする羽目に……


 いやはや、どこから驚くべきか、と言いたくなるほどの本作ですが、まず驚くべきは、その主人公のチョイスでしょう。

 何しろ本作の主人公は、韋昭――と言ってすぐにわかるのはよほどのマニアでしょう(かく言う私も調べるまでわからず)――『三国志』、それも演義ではなく歴史書の方のそれに登場する呉の文官。
 文官ながら、その最期に至るまで実直、剛直ぶりを以て知られた人物であった彼は、『三国志』の呉書の原型となった歴史書『呉書』を編纂した人物であります。

 そんな彼が主人公に選ばれたのは、それは先に述べたとおり、彼が博奕批判の書を著したためかと思いますが、いずれにしても意表を突く人選であることは間違いありません。(そして蔡穎も董白も、もちろん実在の人物であります)

 そして次に驚かされるのは、その彼が挑むことになるのが、死のゲーム、死のギャンブルであること。
 負けたら金ではなく自分の体の一部や、甚だしきは命を持って行かれるギャンブルというのは、これはもうギャンブル漫画では定番ですが、それをここで、このキャラクターがやるのか! と、仰天させられます。

 それも登場するゲームは全て本作のオリジナル。様々なイベントが待ち受けるゲーム盤の中に実際に入り込んで、相手とバトルを繰り広げる「侠客棋」。手にした五枚の札で(自分たちが頭に乗れるほどの)巨大な蟋蟀をカードで操りバトルする「闘蟋牌」。そして木火土金水の五行相克をルールにしたカードゲーム「五行牌」。
 創意を凝らしたゲーム内容と、そこで繰り広げられる駆け引きの面白さは、ゲームマニアでもある作者ならではと感じさせられます。

 そして最後の驚きは、そのゲームで韋昭と対決するのが、呂布、董卓、そして××と、いずれも死した三国志の登場人物――それも一筋縄ではいかない曲者ばかり。
 全くもって先が読めない内容はむしろ奇書と言いたくなるほどですが、それでいて古典の記述を踏まえつつ、丹念に世界観と人物像を構築して描かれる物語は、作者の面目躍如たるものがあると言うべきでしょう。


 と、作者のファンはもちろんのこと、初めて作品に触れる方にも楽しい本作なのですが、気になってしまったのは、作中のゲームがオリジナルであるために、そのルールに馴染むまでに時間がかかってしまうことと、展開がいささか――時に敵側に、時に見方側に――都合良く見えてしまうことであります。
 この辺りはギャンブルものとしては結構残念なところで、そのキャラクターがよく表れたプレイヤー同士の駆け引きは面白いだけに、勿体ない印象は否めません。(そして最終戦の展開もちょっと……)

 こうした点を踏まえてなお、マニアックな舞台・題材・人物を用意しつつ、それを物語や背景となる史実に巧みに絡めて、きっちりエンターテイメントを描いてみせた本作が、期待通りの内容であったことは間違いありません。
 本作を期に、この先も作者一流の中国奇譚、中国伝奇、中国エンターテイメントが描かれていくことを、期待する次第です。


『三国志博奕伝』(渡辺仙州 文春文庫)

三国志博奕伝 (文春文庫)

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