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2019.01.07

原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第12巻 信長の仮面が外れる時!


 父・信秀亡き後ついに織田家の当主の座に就いた信長。しかし織田家の内情は四分五裂、さらに大国・今川の脅威が目前に迫る中、まさに内憂外患であります。そんな中、今川家と結び、叛旗を翻した清洲城小守護代・坂井大膳との戦いの中で、ついに信長の仮面の下の素顔が明らかに……

 父・山口教継ともども今川に寝返り、尾張切り取りを狙った山口教吉と赤塚で激突し、倍近い戦力差でありながら互角以上に戦って見せた信長。しかし尾張の内乱はうち続き、今度は坂井大膳が織田彦五郎・坂井甚介・織田三位・川尻左馬丞らとともに信長方の松葉城・深田城を落として信長の叔父たちを人質に取ることになります。

 しかしそれこそは信長の思う壺。腹心の武羅衆とともに立ち上がった信長は、爺こと平手政秀から彼の愛馬・鬼葦毛を譲られると、勇躍戦場に向かうのですが――しかしそこに、信長の弟・信行派である柴田勝家が、信長の真価を見極めるために加わることになります。
 そして疾風迅雷の勢いで清洲に迫る信長軍は、慌てふためいて清洲から打って出た坂井甚介と萱津で激突することに……


 というわけで、前巻の赤塚の戦いに続き、この巻で描かれるのは萱津の戦い――と、以前の派手な展開が嘘のように、マイナーな戦いが続く本作。もちろん、桶狭間以前の信長の戦いとしてそれなりの位置づけがあるのは間違いありませんが、それにしても――と驚かされます。

 しかし本作ならではの位置づけが、この戦いには成されているのであります。それは作中で沢彦が語るように、尾張衆に初めて信長の仮面――うつけの仮面の下の素顔を見せる戦いであること。
 内憂外患の中で潰されることを避けるため、父の、爺の、そして信長自身の深謀遠慮によって、うつけの仮面の下に秘め隠してきた英傑としての素顔が、ここで初めて明かされるのであります。

 ……いや、読者にとっては物語開始当初から散々素顔を見てきたわけで、その意味では新鮮味はありません。しかしここで素晴らしいリアクションを見せる男がいます。
 そう、それこそが柴田勝家――上で述べたように反信長派でありながら、史実の上でもこの萱津の戦いに加わった勝家が、ここで信長の素顔を目の当たりにするのです。

 本作ではある意味珍しく史実から受けるイメージ通りの、髭面の豪傑肌の人物である勝家。そのいわゆる「いくさ人」である彼が、戦場で何を見ることになるのか――その瞬間の描写が、実に作者らしく気持ちがいい。
 信長軍が使ったことで有名な長槍を使って切り開いた道を駆け抜ける信長と勝家。そこでの信長のある行動、ある表情を見た勝家が、一瞬にして信長の真実を悟る場面が、この巻のクライマックスであることは間違いありません。
(そして勝家が、それとほぼ同時に信長の本質――それも意外で、かつどこか納得させられるそれを見抜くのも実にいいのです)

 正直なところ、悪役・敵役(この巻でいえば甚介)がほとんど人外のビジュアルと言動なのは相変わらずどうかと思いますが、しかしその一方で描かれる信長たち英雄豪傑の姿は痛快で、この辺りの魅せ方はさすがというべきでしょう。


 しかし、この戦いで信長の素顔を知ったのは、尾張の者だけではありません。美濃の蝮・斎藤道三もこの戦いの結果から、そして信長にすっかり心酔した感もある光秀の言から、ついに動き出す決意を固めることになります。
 一歩間違えれば信長の、尾張の絶体絶命の危機となりかねぬこの事態に、爺こと平手政秀はある決意を固めて……

 というところでこの巻は終わり。なるほどこの史実をこう描くか! と驚かされますが、その影響は、その波紋はこれから描かれることになります。さてそれがどのように料理されるのか――本作流のエモーショナルな描写に期待したいと思います。


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