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2019.01.12

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第14巻 死闘の中に浮かぶ柱二人の過去と現在


 アニメもこの春からスタート、連載中の本編の方も決戦に突入と追い風に乗りまくる本作。この単行本最新巻では、刀鍛冶の里編がいよいよクライマックスに突入、前巻では炭治郎と玄弥の同期コンビが奮戦しましたが、この巻では二人の柱がついにその真の力を見せることになります。

 鬼殺隊の日輪刀を打つ刀鍛冶の里の位置を突き止め、襲撃してきた上弦の伍・玉壺と上弦の肆・半天狗。偶然里に居合わせた炭治郎・玄弥・禰豆子と、霞柱の無一郎は迎撃に向かうものの、やはり上弦の名は伊達ではありません。
 一見非力な老人のような外見ながら、四体もの分身を創り出した半天狗に苦しめられる炭治郎たち。一方、謎の刀を研ぐことに没頭する鋼鐵塚らを襲う玉壺に立ち向かった無一郎ですが、脱出不能の水玉・水獄鉢に閉じ込められて絶体絶命のピンチに……


 この刀鍛治の里編の冒頭で、その無神経とも冷徹とも傲慢とも言うべきキャラクターをいきなり披露し、あの炭治郎をして妹絡み以外で反感を抱かせた無一郎。
 しかしその一方で、彼には記憶の欠落――それもリアルタイムでの――があることが折に触れて描かれ、その過去には相当複雑なものがあることがほのめかされてきました。

 そして今回、玉壺戦の中で描かれる――彼が思い出す――過去は、予想通り凄絶極まりないもの。彼が柱となるまでに何があったのか、いや何を失ってきたのか――その痛切な物語が、実に本作らしい形で、容赦なく描かれることになります。
 しかしそこにあるのは、喪失の物語だけではありません。同時に描かれるのは再生の物語――過去と直面し、失われた記憶を甦らせた無一郎が、ついに全き人間として立つ姿は、この巻最高の名場面であることは間違いありません。
(特に彼の名前に込められたものが語られるシーンはただ涙……)

 これはこれまで何度も何度も繰り返してきたことではありますが、本作はキャラクターの――ほとんどの場合ネガティブな――第一印象を、その過去を描くことによって一気にひっくり返してみせるのが非常に巧みな作品であります。
 それはこちらも十分承知していたはずですが、しかし今回もしてやられた――と、もちろん大喜びしながらひっくり返った次第であります。
(そしてそんなシリアスなシーンの直後に、すっとぼけたギャグを投入してくる呼吸にも脱帽)


 そして後半に描かれるのはもう一人の柱、恋柱・甘露寺蜜璃。半天狗の四分身が合体して登場した第五の分身・憎珀天に圧倒される炭治郎たちの前に駆けつけた蜜璃は、たちまち柱の力を発揮して彼らの窮地を救うのですが――しかし分身といえども、攻撃力的には憎珀天は実質半天狗の本体であります。
 一瞬の隙を突かれ、憎珀天の攻撃をまともに食らった蜜璃は……

 と、この巻の表紙で笑顔で決めている蜜璃ですが、ビジュアル的にも、「恋」という謎の呼吸法的にも、そしてゆるふわなキャラ造形も、本作では明らかに異質なキャラクター(この巻のおまけページでもその面白キャラぶりはたっぷりと……)。
 一歩間違えれば賑やかしの色物になりかねないところですが――そんな読者の目をエピソード一つで変えてみせるのが、やはり本作の恐ろしいところであります。

 大ダメージを受けた彼女の走馬燈の形で描かれる回想――そこで描かれるものは、他の登場人物とは少々違う形ながら、やはり自分が自分として生きることができる場を求めて、鬼殺隊にたどり着いた者の真摯な姿にほかなりません。
 それは無一郎のそれとはあまりにベクトルの違うものではありますが、己の過去を背負い、それを乗り越えるべく懸命な者の姿を描いて、こちらの心を大いに揺り動かすのであります。


 さて、柱二人が奮起したとあれば、炭治郎たちも負けているわけにはいきません。蜜璃の援護の下、半天狗の本体を追う炭治郎たちですが――あまりのしぶとさに玄弥がブチ切れるほどの半天狗を倒すことができるのか。
 かなり長きに渡ってきた戦いだけに、そろそろ決着といってほしいものであります。


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