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2019.01.29

麻貴早人『鬼哭の童女 異聞大江山鬼退治』第1巻 激突、異形の復讐鬼vs異形の英雄


 今なお様々な形でエンターテイメントの題材となっている大江山の酒呑童子の物語――すなわち源頼光と四天王の鬼退治。本作はサブタイトルどおり、その大江山の鬼退治の異聞――酒呑童子が倒された後から始まる、復讐の物語であります。

 大江山に籠もり、周囲を騒がせた鬼の大頭目・酒呑童子とその一党が、「朝家の守護」たる源頼光と四天王によって倒されてから数十年後――どこからどこへ行くのか、旅を続ける隻腕の男・バラと、盲目の幼い少女・葵。
 ある村で盗賊の群れに襲われる二人ですが、しかしそれを察知したバラは身の丈ほどもある巨大な得物、そして牛とも虎ともつかぬ異形の姿に変じ、盗賊たちを叩き潰していくのでした。

 そう、彼こそはバラ――すなわち茨木童子であり、そして彼の連れる葵の内に眠るものこそは、かの酒呑童子。渡辺綱の娘である葵を憑代に復活した酒呑童子は、大江山の者たちを皆殺しにされた復讐のために、京に向かっていたのであります。

 しかし未だ不完全な復活しかしておらず、真の力を発揮できない酒呑童子たちの前に現れたのは、怨敵たる頼光と四天王。
 飲んだ者に異形の肉体と超絶の力を与える酒呑童子の血(さけ)を飲んだ彼らを前に、酒呑童子を守りつつ茨木童子はいかに立ち向かうのか……


 冒頭で述べたように、現代に至るまで様々な形で語り直されている酒呑童子の物語。本作もその一つであることは言うまでもありませんが、強く目を引くのは、本作が酒呑童子が討たれた後の物語であり、そしてまた、酒呑が文字通りの童子(童女)の姿と化していることでしょう。
 もとよりこれは真の姿ではありませんが、世に名高い鬼の中の鬼が、幼い少女――それも葵と酒呑童子、別々の人格を持って――として登場するのには意表を突かれます。

 そして意表を突かれるといえば、「英雄」たるべき頼光と四天王もまた、異常な存在として描かれるのにも驚かされます。
 「正義」や「美」について、独自の奇怪なロジックを持つ頼光と、彼から酒呑童子の血を与えられた四天王。その血の効果か、数十年を経ても姿を変えぬ、いや、ひとたび戦いともなれば茨木童子同様の怪物と化す四天王との対決が、本作の中心となることは間違いありません。

 その一番手となるのは卜部季武――かの坂上田村麻呂の末裔を名乗る不敵な男。ただでさえ尋常ではない弓の使い手である彼が、異形と化して繰り出す恐るべき攻撃を、いかに茨木童子が迎え撃つか、その対決がこの巻のクライマックスであります。


 が、設定といいキャラクター描写といい、大いに異彩を放つ本作ですが、この第1巻の時点では、まだまだピンとこない、というのが正直なところ。
 物語展開が謎と伏線、ほのめかしだらけ――というのは、これはまだ始まったばかりであり、むしろ望むところでありますが、キャラクターに今一つ魅力を感じにくいのであります。

 もちろん、異形の(文字通り)復讐鬼と、これまた異形の英雄たち、ともに相手を――いや周囲の関係ない者たちも含めて――殺す気満々の面々とくれば、これはあえて感情移入をできないように造形しているとは想像がつきます。
 特に酒呑童子と葵、双方に複雑な想いを抱えるらしい茨木童子については、これから様々に語られるのだと思いますが――その宿敵たる源頼光が、意味深なことを口走るばかりで、敵の首魁としての凄みも魅力も感じにくいのをどう見るべきか。

 こちらももちろん、これからが本領発揮なのだとは思いますが、これが「史実」という土台があるからまだしも、完全にオリジナルのキャラクターであったらさらにどうだったか(これは実は他のキャラにも言えることなのですが)――という印象は否めないところであります。


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