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2019.01.06

瀬下猛『ハーン 草と鉄と羊』第5巻 激闘の果て、驚愕の新展開へ


 生き延びて海を渡った源義経がテムジンを名乗り、新たなる戦いを繰り広げる姿を描く本作も、気付いてみればもう第5巻。メルキトに攫われたボルテを追って単身乗り込んだテムジンは果たしてボルテを奪還できるのか、そしてその先に待つものは?

 放浪の末にキャト氏に拾われ、タイチウトやケレイトとの微妙な関係を危険な綱渡りで切り抜けてきたテムジン。しかし何となくいい感じだったコンギラト族の娘・ボルテがメルキトの族長・トクトアに略奪されたことから、テムジンはただ一人メルキトに乗り込むことになります。
 とはいえメルキトはモンゴル三強の一つであり、鉄資源を擁して力を蓄えてきた強大な部族。行く手に立ち塞がる無数の兵、そして剛力を誇るトクトアに、テムジンは……


 というわけで、この巻の前半で繰り広げられるのは、第1部完とでも言いたくなるような死闘。
 義経としての活躍として伝えられるものから想像できるとおり、兵を率いても個人の武勇でも抜きん出たものを持つテムジンですが――しかし個人の力にはもちろん限界があります。

 そんな彼を助けるのは、ボォルチュやカサル、ベルクテイといったキャト氏の面々だけでなく、ジャムカやオン・ハーンといった、時に手を組み、時に利用し合ってきた面々。
 もちろんこれはお互いの利害関係が合致したからでもあるのですが――しかしそれでも、たった一人で大陸に流れ着いた異邦人がいかなる理由であれこれだけの人を動かすというのは、それは間違いなくテムジンの力であり、運であり、才といえるのではないでしょうか。

 そして死闘の果てに様々なものを得たテムジン。ボルテを傍らに、新たな道を踏み出した彼の向かう先は……


 と、仰天させられたのは、ここで物語の時間は大きく流れ、4年後を舞台とした物語が始まること。テムジンはキャト氏の族長となり、そして大国ケレイトのオン・ハーンは、弟の反乱によって国を追われ――え!?

 いや、テムジンがキャト氏の英雄イェスゲイの子として族長を継ぎ、弟であるカサル、ベルクテイを率いて高原統一に乗り出したのも、一方ケレイトでオン・ハーンがその王位を追われたのも史実通りではあります。
 しかしそれを直接描かずにスルーしてしまうとは――おそらくは非常に長い期間を描くことを想定しているであろう本作で、どこかで時間が飛ぶのはむしろ当然とはいえ――さすがに驚かされました。

 特にオン・ハーンは、物語が始まって以来テムジンやジャムカにとって、壁として立ち塞がってきた人物。強大とも凶暴ともいうべきその人物像は、テムジンの最大の敵かつ目標として描かれていたのですが――しかしその(一時)退場がこのような形で処理されるとは、どうなのかなあ――という印象はあります。
 史実通り(といってもおそらくベースは『元朝秘史』だとは思いますが)タイミングなどアレンジも可能だったのでは、と素人考えながら感じてしまいました。もっとも、この後より詳しく描かれるのかもしれませんが……

 さらにいえば今回テムジンとジャムカの間に決定的な影響を与えるジャムカの弟の登場も、いささか唐突な印象があり――過去エピソードも今回描かれてはいるものの――本作独特のテンポの良さが、今回はいささか性急な印象に繋がってしまったように思えます。


 とはいえ、終盤には本作ならではの展開――テムジンではなく、源義経に恨みを持つと思しき謎の人物が登場。彼の存在がこの先のテムジンの運命と物語に如何なる影響を与えるかは気になってしまうところで、その辺りはやはり巧みと言わざるを得ません。


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ハーン ‐草と鉄と羊‐(5) (モーニング KC)


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