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2019.01.25

廣嶋玲子『妖怪の子預かります 7 妖怪奉行所の多忙な毎日』 少年たちが見た(妖怪の)大人の世界?


 先頃、森野きこりによる漫画版の連載もスタートし、すっかり人気も定着した感のある『妖怪の子預かります』。その第7弾は、これまでと少々趣を変えて、人間の世界ではなく、妖怪世界の妖怪奉行所の日常の姿を、烏天狗の双子の視線から描いていくこととなります。

 漫画版でひさびさにシリーズ冒頭を読み返して思い出しましたが、この『妖怪の子あずかります』という物語のほとんど冒頭から登場しているのが、本作の舞台となる「妖怪奉行所」。
 その名の通り妖怪たちにとっての奉行所として、主人公の弥助――いやその保護者である千弥と縁浅からぬ大妖怪・月夜公を奉行に戴くこの役所は、妖怪の世界の秩序維持をはじめとする様々な任に当たっているのです。

 そしてこの妖怪奉行所の与力、同心など諸々のに当たるのが烏天狗一族。その中でも烏天狗筆頭にして月夜公の右腕とも称されるのが飛黒――本作の中心となる少年、右京と左京の父親であります。
 化蛇一族の美女・萩乃との熱愛の末、右京と左京を授かった飛黒。将来は妖怪奉行所でお役目に就く身と、二人の子を妖怪奉行所に連れてくる飛黒ですが――かくて、mこの二人の目から見た、タイトル通りの状況が本作では描かれることになります。


 日夜を問わず助けを求めてやってくる様々な妖怪の相手をする妖怪奉行所。それだけでも人間の世界の奉行所よりもはるかに忙しそうですが、何しろ相手は妖怪、一筋縄ではいかない連中ばかりです。
 そんなわけで、夫婦喧嘩の仲裁、淵の主の脱皮の手助けといった、字面だけ見れば大したことのないようなことでも、けた外れの大騒動になるのが常なのであります。

 さらに普段は強面美形ながら甥っ子の津弓にだけはデレッデレになる月夜公が、津弓を喜ばせるためだけに奉行所を挙げての武芸大会を開いたりして、色々と賑やかな職場なのですが――その内幕が右京と左京というピュアな子供たちの目から、一種の社会科見学的な味わいで描かれるのは、なかなか楽しいところであります。

 冒頭に述べたとおり、人間世界ではなく妖怪世界がメインとなるため、本作は時代小説というより完全にファンタジーの領域のお話ではあります。(もちろん、元々後者の要素がかなり強いシリーズでしたが)
 そのためもあって、シリーズの主人公である弥助たち人間界サイドのキャラクターがほとんど脇役となってしまっているところでもあります。

 その点は、個人的には少々残念ではありますが――しかしさすがは数々の異界を描いた作品を送り出している作者だけあって、そんなひねくれた読者の目から見ても、世界観の作り込みとそれを活かしたエピソードは楽しいものばかり。妖怪たちのある意味微笑ましい奮闘ぶりを存分に味わわせていただきました。


 ……が、楽しいばかりではなく、底冷えするような恐ろしさをも描くのがこのシリーズの、そしてこの作者の持ち味であります。
 終盤に近づくにつれて明らかになっていく、物語の背後で蠢く悪意と狂気の存在。それが物語の中で巧みに伏線として描かれていたのにも大いに唸らされますが――しかし何よりも印象に残るのは、その圧倒的な悍ましさであります。

 そこまでくると、もはや少年たちの楽しい社会科見学などとは言っていられない状況。あまり覗き込みたくない大人の世界に巻き込まれた少年たちの物語は、ひとまずの終わりを迎えますが、しかしまだまだ一件落着とはいきません。
 その先に何が待つのか――久々に弥助たちが活躍するという、次なる物語にも期待であります。


(しかし妖怪時代の千弥、やっぱり月夜公の寵愛を受けていたという周囲の認識だったのだなあ……いやヤンデレ目線だけのことかもしれませんが)


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