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2019.01.08

輪渡颯介『別れの霊祠 溝猫長屋 祠の怪』 今度こそ一件落着? 四人組最後の事件!?


 長屋の祠に詣でたことで、幽霊が分かるようになってしまった四人の子供。しかし祠にいた霊が成仏し、子供たちも奉公に出て一件落着かと思いきや、まだまだ騒動が――というわけで、これで本当に完結(?)の『溝猫長屋祠之怪』の最終巻であります。

 かつて長屋で亡くなった少女・お多恵の霊を祀っていた祠。この祠に詣でた子供は幽霊と出会うようになってしまうのですが――今年その番が回ってきた忠次、銀太、新七、留吉の四人組は、何故かそれぞれ幽霊を「嗅ぐ」「聞く」「見る」(そして全く感じない――かと思えば最後にまとめてくる)と分担してしまうのでした。
 しかしそれもお多恵殺しの犯人が捕まったことで彼女の霊も成仏し、怪異もなくなって……

 という前作を受けて始まる本作ですが――祠の霊もいなくなり、四人もそれぞれ長屋を出て奉公することになって、これでもう幽霊騒動から卒業――かと思えば、もちろん(?)そうは問屋が卸しません。

 徐々に力は弱まっていったものの、まだ怪異を感じてしまう四人組。しかしそれどころではない、とんでもない事件が勃発することになります。そう、これまで散々四人を振り回してきたトラブルメーカーの(自称)箱入り娘・お紺に縁談が、それも二件も持ち上がったのです!
 どちらもお紺の実家と同じ質屋の、それも次男坊。しかし一方の杢太郎は強面で無愛想、そしてもう一方の文次郎はイケメンで愛想よし。これは既に勝負あった――ように見えますが、しかしそれはそれで「あの」お紺の夫となるのも災難ではあります。

 そしてそんな二人の婿候補に、何故か色々な形で関わってしまう四人組。夢で屋根の上に立つ不気味な女を目撃した忠次、姿なき白粉の匂いを嗅ぐ新七、行く先々で不思議な声から助言を受ける留吉――銀太だけはまあ関係なさそうですが、彼は彼で「幸運を呼ぶ」観音像にまつわる事件に巻き込まれたりと、相変わらずであります。
 そして騒動の果てに明らかになる恐るべき因縁とは……


 というわけで繰り返しになりますが、お多恵ちゃんの霊も成仏して、幽霊を感じる能力もなくなったはずの四人組。これでめでたくシリーズも終了か――と思いきや、最後の最後に爆弾を落とすのが本作であります。

 四人組が長屋を出ただけでなく、長屋の猫たちもあちこちに貰われ(そして唯一の犬も姿を消し)、ついでに古宮先生も手習所を辞め、おまけにお紺に縁談が――と、完全に終了ムード。
 しかしそのほとんどがおかしな方向に転がり、そして一見無関係に見えた事件の数々が繋がった末に真実が――というのは、本シリーズ、というより作者の作品ならではの醍醐味というべきでしょう。

 そしてそれを彩るのは真剣に怖い怪異の数々。今回は四人組がそれぞれ奉公に出たことで怪異が分散してしまったのは痛し痒しですが、しかしそれによって、ある意味怪異が同時多発的に現れるようになるというのは、これはこれで今までになかった新鮮な見せ方です。
 そしてその怪異がまた、実に厭な、というより忌まわしい感じなのがイイのであります。

 もっとも、普通とは別の意味で人間が一番怖いのが本シリーズ。今回描かれるのは完全に洒落にならない事件の数々、特に今回の悪役はシリーズでも相当の外道なのですが――まあ、そんな連中が古宮先生に、ち○こ切りの竜にどんな目に合わされるかも本シリーズのお楽しみなので、それはそれで……


 一番怖かった怪異が、あれっというような扱いで終わったり、ある意味オールマイティーなキャラクターが登場して四人組の存在がちょっと薄くなったりという点はあるものの、本シリーズらしい結末はやはり楽しく、満足できる幕切れでした。
 もちろん第二シリーズが始まっても大歓迎なのですが、まずは怪異に笑いに、最後の最後まで楽しませてくれたシリーズに感謝であります。


『別れの霊祠 溝猫長屋 祠の怪』(輪渡颯介 講談社) Amazon
別れの霊祠 溝猫長屋 祠之怪

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