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2019.02.03

川瀬夏菜『鬼の往き路 人の戻り路』第1巻 人と人、人と鬼とを繋ぐもの


 最近、何となく源頼光とその四天王の登場する作品を手にすることが多いのですが、本作もその一つ。渡辺綱を主人公に、彼と主や仲間たちの繋がり、そして鬼たちとの対決を描く連作ですが――しかし単純に鬼を退治して終わりというわけではない、ユニークなシリーズであります。

 正史においては、清和源氏の嫡流であり、藤原道長の家司的存在であったことで名を残す源頼光。しかしフィクションの世界において彼が名を残すのは、その四天王――渡辺綱・坂田金時・卜部季武・碓井貞光を引き連れての鬼退治・魔物退治においてでしょう。
 本作はその後者の姿を中心に描かれる物語ですが、まず頼光と四天王の設定に、本作でなければお目にかかれないようなアレンジが為されています。

 というのも、彼ら五人はいずれもそれぞれ異能の持ち主。
 異界のものの声を聞き、姿を見る力を持つ頼光。距離的に遠くのものを見るだけでなく、人の運命や異界のものの姿まで見る超視力の綱。力自慢の上に優れた嗅覚を持つ坂田金時。華奢な体ながら人間離れした腕力を発揮する少女(!)・碓井貞光。ある理由から常に女装している美青年・卜部季武……
(季武だけ説明になっていませんが、ネタバレ防止のためご寛恕下さい)

 彼らはその力によって周囲から距離を置かれ疎まれながらも、しかし同様の存在である頼光ら仲間たちと巡り会い、人の世のためになることを誓ったのであります。
 しかし人の世のためになるといってもどうやって? ……それこそが、本作の中核であり、ユニークな点であります。

 本作に登場する「鬼」は、生まれついての怪物であったり、人と異なる種族というわけではありません。彼らはいずれも元は人――人と異なる力を持って生まれ、そしてその力に溺れあるいは取り込まれたことにより、人の心を失った者たちなのであります。
 残念ながら、一度鬼となって「あちら側」に往ってしまった者は人には戻れません。しかしまだ人であるうちであれば、「こちら側」に引き戻せるかもしれない……

 鬼であれば退治するのも辞さないが、しかしその前に人に引き戻すことを試みる――自分たちも一歩間違えれば鬼になったかもしれないだけに、彼らは奮闘するのであります。鬼の往き路と人の戻り路の間に立って。

 ちなみに本作はそんな彼らの中でも、渡辺綱を主人公としています。幼い頃から異能によって疎外されながらも、同じく異能を持ち、「あちら側」に行きかねない頼光を繋ぎとめる「綱」として生きてきた彼の存在は、本作を象徴するものといえるでしょう。


 さて、この巻に収録されているのは、『鬼童丸』『茨木童子』『酒呑童子』の全3話。
 「古今著聞集」に登場し、鞍馬寺で頼光たちを襲った鬼道丸をはじめ、渡辺綱に腕を切られ、後にその叔母に化けて腕を取り返した茨木童子、そしてその茨木童子を配下として大江山に籠もった大鬼・酒呑童子――特に茨木童子と酒呑童子は、鬼といえばまず連想されるほどの存在ではないでしょうか。

 そんな有名どころの鬼たちですが、上で述べたような本作ならではの設定によって料理されると――基本的な展開が様々な伝説・巷説に語られる内容を踏まえて描かれるからこそ一層――全く異なる味わいをもつことになります。
 そう、鬼を退治するのではなく、人を生かす――そして鬼であっても心がある者であれば共に生きる道を探す姿が、ここでは描かれていくのであります。

 特に茨木童子は本作の主人公である綱との因縁があることもあり、原典通りに物語が展開していくのですが――終盤でのある意味ドンデン返しには仰天させられます。
 あの切られた、そして戻った腕が、そんな意味を持ってくるとは! と驚くとともに、いかにも本作らしい心温まる結末に、こちらまで嬉しくなってしまうのであります。


 もちろん、あまりに甘すぎるという印象がないわけでもありません。また、特にアクション描写についてはちょっとどうかなあと思う点も少なくないのもまた、正直なところであります。
 それでもなお本作が、人と鬼の姿を描いて独特の、そして魅力的な物語であることは間違いありません。

 ちなみに構成を見ればわかるように、本作はこの第1巻の時点でひとまずの終わりを見ているのですが、嬉しいことに続編があります。さらにバラエティに富んだ怪異と対決する第2巻については、また別途紹介させていただきます。


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