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2019.02.08

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第12章の1『犬張子の夜』 第12章の2『梅一番』 第12章の3『還ってきた男(上)』


 盲目の美少女修法師・百夜が世を騒がす付喪神や亡魂と対峙するシリーズの第12章は、ほとんど全編を通じて、何とも不可解かつ不気味な事件が展開していくこととなります。禍々しい存在が蠢く背後にいるのは……

『犬張子の夜』
 板橋近くの小柳村で神隠しにあったという農家の息子。百夜に息子捜しを依頼に来た父親は、夜中に大勢の声で、広野で死人の骨を集める云々という歌声を聞いて目を覚まし、息子が消えているのに気付いたというのでした。
 さらに近くの茅場村では、村人全員が姿を消すという変事が発生。早速現地に向かった百夜は、そこで亡魂憑きの気配を感じて追うものの、その気配が途中で拭い去るように消えているのに気付きます。

 そして農家の神棚から、犬張り子が消えていたことに気付いた百夜は、そこからある真実に辿り着くのですが――

 冒頭、暗闇に閉ざされた田んぼ道を、葬列の楽を奏でながら奇妙な踊りを踊る黒装束の集団がやってくるという、何とも悪夢的な場面で始まる本作。
 描かれる事件も不可解な上に、百夜が見つける手掛かりの断片も不気味なものばかり。一体これは――というところで解き明かされる真実は、ある意味この雰囲気がミスリードに繋がる形で、ホッとさせられます(もっとも、その原因はやはり恐ろしいものなのですが……)。

 この事件そのものはここで解決しますが、しかし怪異の本体はどこへ消えたのかは謎のまま。しかし百夜は、やがて嫌と言うほどそれを知ることになるのですが……


『梅一番』
 梅の木の根元から、「いちばん。いちばん……」という声に導かれ、小判が湧き出る仙郷の夢を見るようになった万吉。しかし夢から覚めて暴れ出した彼を縛り上げた同じ長屋の面々の依頼で、百夜は万吉の長屋を調べることになります。果たしてそこから現れたものとは……

 第12章のうち、本筋とは離れたエピソードが中心となる本作。男に小判が湧き出る夢を見せるのは何者か――という謎を巡る物語は、本シリーズの王道とも言うべき内容で、本筋は小休止という印象ながら、禍々しい事件の後だけに、ちょっと安心させられます。
 ……が、百夜の推理で怪異の源が暴かれ、一件落着かと思われた先に待つのは思いもよらぬサプライズ。果たして江戸で何が起きようとしているのか――ここから物語は一気に展開していくことになります。


『還ってきた男(上)』
 旅先で死にそのまま葬られたはずが、生前そのままの姿で江戸に現れた男・六兵衛。彼を目撃した同じ長屋の男に依頼された百夜は、六兵衛が長命寺でも目撃されているのを知り、寺に向かうのですが――その前に謎の雲水が現れます。
 これまでに起きた一連の怪異の真相を知るような口ぶりながら、それを尋ねようとした百夜に襲いかかる雲水。恐るべき雲水の技から辛くも逃れた百夜は、寺の見世物小屋で奇怪な出し物が出ていたことを知るのですが……

 死んだはずの男が還ってくるだけではなく、前々話で触れられた、住民が全て消えた茅場村でも住民たちが帰ってきたことが語られ、謎は深まるばかりの本作。しかし何よりも印象に残るのは、亡魂憑きたちで構成されている(らしい)見世物小屋という、何とも悍ましい存在でしょう。

 そしてその真実を知るらしい謎の雲水がこのエピソードからいよいよ登場するのですが――これがもしかすると本シリーズ最強の遣い手。
 もの凄く勘のいい方であれば、この時点でその正体に気付くかもしれませんが――それはともかく、謎を振りまくだけ振りまき、百夜を叩きのめして消えるのですから、百夜もこちらもたまりません。

 そこで左吉がナイスフォロー、思わぬ相手に助っ人を依頼するのですが――さてその助っ人が活躍する機会はあるのか、物語はここで半ばであります。


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