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2019.02.23

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第13章の1『百夜の霍乱』 第13章の2『溶けた黄金』 第13章の3『祈りの滝』


 北から来た盲目の美少女陰陽師が付喪神や亡魂、妖と対決する本シリーズ。この前の第11章・第12章では大仕掛けな連続エピソードが描かれましたが、この第13章は久々に単発エピソードが続きます。大事件の連続で霊感が弱まった百夜の、いわばリハビリの行方は……

『百夜の霍乱』
 というわけで、冒頭のこのエピソードで描かれるのは、鬼の霍乱ならぬ百夜の霍乱――死闘に次ぐ死闘で霊感が一時的とはいえすっかり弱まってしまった百夜の姿。そんな時に舞い込んできたのは、唐物屋に出没する、奇怪な唐人の亡霊調伏の依頼であります。
 夜な夜な現れるという、両刃の剣を持った唐人の霊。しかし店の者たちに確認してみれば、霊が手にしているものは剣だけでなく剣と棒になったり、龍に食われる武者であったり、逆に盆で女に叩きのめされる龍であったりと、様々な奇妙な姿で現れるとわかって……

 普段であれば霊感だけで大抵の怪異の正体を察知できる百夜。結構もったいぶり屋なだけに、確実に事件解決となるまでそれをひっぱる彼女ですが、今回はそんな余裕がなく、ほぼ推理と知識によって挑まなければならなくなるのが――本人には申し訳ないですが――何とも面白いところであります。
 そしてそんな苦労の末に百夜が暴いた霊の正体は――なるほど、こちらは実物は見たことはないものの、説明を受ければ納得の存在。正体が明らかになった後の、ちょっとほろ苦くも微笑ましい結末にもホッとさせられます。
(しかし今回の百夜、左吉に弱みを見せないように色々と誤魔化したり、友だちが少ないと言われて怒ったりするのが人間くさくてよろしい)


『溶けた黄金』
 両替商の蔵に現れたという白い人影。調伏の依頼を受けて調べる百夜は、そこで古い古い亡魂の存在を感じ取るのですが――その場に現れた亡魂は、殺気をもって百夜に襲いかかるのでした。
 亡魂が、銭函に納められていたある品物から現れたことを知った百夜ですが、その由来とはなんと……

 これまでも神仏や歴史上の人物等、様々な存在(にまつわる存在)と対決してきた百夜ですが、今回登場するのは、何と誰もが知るあの人物。
 描かれる怪奇現象としてはそこまで派手ではなかったこともあり、まさかこの出だしこう繋がっていくとは! と驚かされますが、最後に何故がいくつも残る結末は、左吉が言うようにもやもやっとする――というより、ちょっと豪快すぎたかなあという印象があるというのが、正直な印象ではあります。

 それはともかく、まだまだ本調子にはほど遠く、修行を決意する百夜。そんな彼女の不調を、ほんのわずかな彼女の言葉から感じ取る左吉は、何のかんの言っても良い奴ではあります。


『祈りの滝』
 修行のため、桔梗の案内で不動山に向かった百夜。そこでは女性も滝行ができるというのですが、しかし地元の人間から、そこに無数の女たちの亡魂、さらに修験者たちの亡魂までも出没すると聞かされるのでした。
 もちろんそんな話に怯むはずもなく、山に踏み込む百夜一行ですが、はたして夜の滝には次々と白い人影が現れて……

 これまでシリーズの折々で描かれてきた、「向こう側」の世界の不思議なロジック。(真面目なことをいえば)その真偽はこちらにはわからないわけですが、百夜の口から語られるそれは妙に信憑性が高く、あの世にも様々な理屈があるのだなあと毎回感心させられます
 以前から何度も述べているように、本シリーズはミステリの要素が強いのですが、それを可能としている一因は、このように超自然の世界には超自然なりの、ロジックが設定されていることにあるとも言えるでしょう。

 そして本作でクローズアップされるのは、まさにそんな向こう側のロジックなのですが――しかしそこから浮かび上がるのは、向こう側に行っても変わらぬ、切なる人の想いであります。
 百夜たちの務めは、怪異を祓うだけでなく、このような想いを受け止め、昇華させることにある――そんなことを再確認させられるエピソードです。

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