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2019.02.07

川瀬夏菜『鬼の往き路人の戻り路』第2巻 「鬼」と「人」の関係の先に


 鬼退治で知られる源頼光と渡辺綱をはじめとする四天王が、人と鬼の狭間で迷う人々に手をさしのべるユニークなマンガの第2巻、完結編であります。この巻で描かれるのは、頼光や四天王が退治したことで知られる妖怪の数々ですが――しかしいずれも一筋縄ではいかないアレンジが施されております。

 酒呑童子や茨木童子といった鬼と戦い、退治したことで知られる源頼光と渡辺綱・坂田金時・卜部季武・碓井貞光の四天王。
 本作は、異能を持ち、周囲から疎まれた過去を持つ彼らが、同様の悩みを持つ者を救い、心をなくした鬼となることを防ごうとする姿を、綱を中心として描いてきました。

 第1巻では彼らの「鬼退治」――鬼童丸・茨木童子・酒呑童子とのエピソードが描かれましたが、伝説では、彼らが鬼以外の妖怪たちとも対峙したことが伝えられています。
 というわけでこの巻に登場するのは、土蜘蛛・滝夜叉姫・姑獲鳥・鵺と、(最後以外は)いずれもニヤリとできる顔ぶれ。そんな相手と頼光&四天王の対決が、よりバリエーション豊かに描かれることになります。

 時系列的には明示されていませんが、この巻で描かれるのは、第1巻の内容の前後に挿入されるべき、いわば拾遺編という内容。
 第1巻では頼光と綱が中心となり、他の四天王の描写が少なめだったのですが、『土蜘蛛』では金時、『滝夜叉姫』では貞光、『姑獲鳥』では季武(そして『鵺』では頼光と綱)と、一話ずつ主役エピソードを設定することで、四天王全員に光が当たる形となっているのが嬉しいところです。

 直接頼光とは繋がりのない『鵺』を除けば、いずれも伝説や物語(滝夜叉姫は大宅光圀だろうと思いきや、神楽では季武と貞光が対決したのですね)を踏まえたこれらのエピソードですが、物語の前半部分――四天王たちと「鬼」たちが対峙するまでは基本的に原典を踏まえた内容。
 しかしその先、四天王が彼らと如何に対峙するか、決着をつけるかについては、原典から大きく踏み出して、本作ならではのものとなっているのは、第1巻と同様であります。


 さて、そんな中で個人的に印象に残ったのは、『滝夜叉姫』と『姑獲鳥』であります。

 前者は、近頃宮中を生霊で騒がす美しき妖術使いの滝夜叉姫に、頼光の蜘蛛切りの太刀を奪われた季武とともに、綱と貞光が姫を追って幻の屋敷に入り込む物語。
 幻を見破る目の力が災いして(現実の姿と幻が重なって混乱するという説明が面白い)力が出せない綱に代わり、貞光が姫と一対一で対決することになります。

 実は本作の貞光は力自慢の美少女という、ある意味原点から最も離れた設定ですが、そんな彼女と滝夜叉姫の対決は、大きすぎる力を持って生まれた女性と、大きすぎるものを背負わされ、力を求めた女性という構図となっているのが興味深いところであります。
 そして何のために力を用いるかによって、人は鬼と化すのか、人に留まるのかが決まるという本作ならではの設定が活きてくるのもいい。ちょうどその中間で立ち止まってしまった姫の悲しみが漂う、ちょっと苦い結末も印象的なエピソードです。

 一方の『姑獲鳥』は、『今昔物語集』で季武が川で姑獲鳥と出会い、赤子を託されてそのまま平然と川を渡ったというエピソードを踏まえつつ、その先を描く物語。
 ……なのですが、そんな季武に姑獲鳥がベタ惚れしてしまい、猛烈なアタックを食らってしまうという、ある意味少女漫画らしい展開のお話ながら、そこに季武自身の力を絡めることで、一捻りが効いた内容となっているのが面白い。

 というのも、実は季武の力は、その声で他者を魅了するというもの。その力を抑えるために、彼は自分の声や姿を変え、女の姿で暮らしているのですが――そんな彼にとって、自分に無条件の好意をぶつけてくる姑獲鳥は、迷惑以上に嫌悪感を感じさせる存在なのであります。
 ここで描かれるのは、「力」の在り方もさることながら、「心」の在り方。本作で描かれる鬼の存在が、力に溺れた末に心を失った人であることを考えれば、これもまた、本作らしい人と鬼の関係性の物語と言うことができるでしょう。


 さて、そんな最終巻の結末に収録されている4ページの掌編が『羅城門の鬼』。羅城門の鬼は、綱が片腕を落としたと伝えられる鬼ですが、しかし彼が片腕を落としたといえば他にも――と、原典の時点ですでにややこしい関係性を巧みに活かして、「人」と「鬼」の間の一つの希望の物語として成立させてるのが素晴らしい。
 本作のエピローグとして、まことにふさわしい物語であります。


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