« 山本周五郎『秘文鞍馬経』 秘巻争奪戦を通じて描く人と人の間の希望 | トップページ | 永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第20巻 いつまでも変わらぬ、そして新鮮な面白さを生む積み重ね »

2019.02.19

岩崎陽子『ルパン・エチュード』第3巻 運命の二人の恋、すれ違う二人の想い


 ラウールとルパン、二つの魂を持つ「アルセーヌ・ルパン」を主人公とする、全く新しいアルセーヌ・ルパン伝たる本作もこれで第3巻、『カリオストロ伯爵夫人』編の2巻目であります。クラリスと恋に落ちたラウールと、カリオストロ伯爵夫人ことジョジーヌを愛するルパン、二人の運命の行方は……

 天真爛漫な青年ラウール・ダンドレジーと、普段は彼の中に眠り、周囲の悪意を感じた時にのみ現れるアルセーヌ・ルパン――奇妙な共存関係にある「二人」。彼らの運命は、ラウールが美しき男爵令嬢クラリス・デティーグと出会い、恋に落ちたことで大きく動き出すことになります。

 周囲の悪意を退ける強い善意を持つクラリス。ルパンにとっては天敵に等しい彼女ですが、彼女の純粋な魂に触れたルパンはその恋を祝福し、ラウールとの仲を応援することを誓うことになります。
 そのためにデティーグ男爵に接近する中、彼が怪しげな一団に加わっていることを知ったルパン。一団が謎の美女ジョゼフィーヌ(ジョジーヌ)・バルサモに私刑を下そうとしていた場面に遭遇し、彼女を救い出したルパンですが――ジョジーヌは、クラリスとは逆にラウールの出現を抑える力を持っていたことを知るのでした。

 これこそ運命の出会いと、ジョジーヌ、そして謎の一団が追う「七本枝の燭台争奪戦」に乗り込んでいくルパン。彼の熱意にほだされたジョジーヌもこれに応え、二人は結ばれるのですが……


 というわけで、数百年前から変わらぬ美貌を誇ると言われるカリオストロ伯爵夫人ことジョジーヌと運命の恋に落ちたルパン。クラリスが強い善意を持つとすれば、それと正反対の力を持つジョジーヌは――ということになりますが、はたしてジョジーヌは屈強な男たちを顎で使う一種の怪人物であります。
 しかしそんな彼女を相棒、そして師匠として、怪盗紳士としての修行を積んでいくルパン。一見順風満帆のようですが――ここで本作ならではの設定が活きることになります。

 完全に心を許したジョジーヌに対し、自分とラウールの関係を語るルパン。しかし彼女はそれを彼の冗談としか理解せず、あくまでも彼を「ラウール」として遇するのであります。そう、ルパンではなくラウールとして。
 もちろん彼女もルパンの名を知っているのですが、それはあくまでもラウールの偽名として。たとえ本人に語られたとしても、彼女にとって「ルパン」が別の人格であるなどとは思いもよらないことなのであります。

 しかし自分自身の存在を満天下に知らしめるために活動するルパンにとって、愛する女性が自分の存在を認めない――これほどの不幸があるでしょうか?
(実はジョジーヌも、「カリオストロ伯爵夫人」の仮面の下に本当の自分を隠さざるを得ないという点で、ルパンと同様の存在なのですが――だからこそ、このすれ違いが切ない)

 もちろんこれは表面上は見えないすれ違いではあります。この後も二人は、燭台争奪戦のパートナーとして支え合うことになるのですが――しかしこの時、二人の間に初めて、そして深いヒビが入ったというべきでしょう。
 本作の物語展開は、表面上は原作にかなり忠実であります。しかしその内面においては、本作ならではの物語が描かれている、本作ならではの感情が荒れ狂っている――そう申し上げてよいかと思います。

 そしてまた、その本作ならではの点を、二人の感情の外面のわずかな表れ――つまり表情を捉えて克明に描いてみせる画の力が素晴らしい。
 ほんの僅かな口元の角度、視線の行方といったものだけで、その想いの在処を浮き上がらせてみせるのは、近年はハーレクインのコミカライズでも活躍している作者ならでは――と強く感じます。


 さて、二人の内面のすれ違いのことばかり触れてしまいましたが、その間も、中世修道院の財宝の行方を秘めるという七本枝の燭台を巡る物語は進行していきます。

 ジョジーヌと自分の決定的な方向性を自覚したルパンが彼女と袂を分かったことで、三つ巴の様相を呈することとなった争奪戦の行方はいよいよ佳境に突入するのですが……
 しかし三つ巴といえば、ルパン/ラウールとジョジーヌ、クラリスの関係もまさにそれ。この巻のラストでは、ついに一堂に会した三人の想いがぶつかり合うという緊迫した場面が描かれることになります。

 おそらくこの物語の結末は原作通りでしょう。しかしその下の感情を本作がいかに描くのか――それはまだわかりませんが、我々がよく知る、しかし全く知らないルパン譚の面目躍如たるものになることだけは間違いないと、これは今から断言してしまいましょう。


『ルパン・エチュード』第3巻(岩崎陽子 秋田書店プリンセス・コミックス) Amazon
ルパン・エチュード(3) (プリンセス・コミックス)


関連記事
 岩崎陽子『ルパン・エチュード』第1巻 誰も知らない青春時代、二重人格者ルパン!?
 岩崎陽子『ルパン・エチュード』第2巻 天使と女神の間に立つラウールとルパン

 モーリス・ルブラン『カリオストロ伯爵夫人』 最初の冒険で描かれたルパンのルパンたる部分

|

« 山本周五郎『秘文鞍馬経』 秘巻争奪戦を通じて描く人と人の間の希望 | トップページ | 永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第20巻 いつまでも変わらぬ、そして新鮮な面白さを生む積み重ね »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 岩崎陽子『ルパン・エチュード』第3巻 運命の二人の恋、すれ違う二人の想い:

« 山本周五郎『秘文鞍馬経』 秘巻争奪戦を通じて描く人と人の間の希望 | トップページ | 永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第20巻 いつまでも変わらぬ、そして新鮮な面白さを生む積み重ね »